by Ryota Takahashi | Mar 17, 2021 | AUTOMOTIVE / 自動車業界, IAM NEW
FIAT CAFFÉ
東京の山手通り沿いに“フィアットカフェ”というのがあります。文字通りイタリアの自動車ブランドフィアットが関係するカフェであり、イタリアンテイストがプンプンに立ち込めています。赤を基調にした店内はかなりインパクトがあるので、まだ訪れていない方はけっこう驚くかも。イタリア好きは心躍ります。
メニューもそうで、パスタやホカッチャ、ジェラートなどが胃袋を満たしてくれます。食後のカフェもいい感じ。エスプレッソの香りが嬉しくなります。
そんなカフェはじつはディーラーに併設されています。なので、隣のテーブルでは商談をしていたり。「もうちょっとまけてよー!」なんて声が飛び交います。ウソです。みなさん場所柄お行儀がいいですから。かく言う私もそんな経験をしたひとりで、そこでクルマを購入したことがあります。フィアット500です。アリタリア航空の日本語版機内誌編集長を始めた頃で、イタリア車を一台持ちたいなと思い始めていました。イタリアの魅力を伝える雑誌に携わるのですからイタリア車くらい乗らないといけませんよね。と言う口実です。
でも結果それでよかったと思っています。あれから5年が経ちますが、今もフィアット500は毎日元気に走っています。小さくて扱いやすいわりに荷物は積めますし、走りも楽しい。キビキビと小気味よく走る様は独特ですね。日本車やドイツ車のコンパクトカーとも違います。なんか人間味があって情緒的なんですよね。思い過ごしかもしれませんが。
そんなフィアットオーナーなので、フィアットカフェにはよく顔を出していました。空いていればディーラースーペースに駐車できるのもメリットです。あ、ここでクルマ買わなくても停めていいみたいなのでお気遣いなく。でも景観上やはりイタリア車がいいですね。後でセールスマンが買い替えの相談に来るかもしれませんが。
都内にはクルマで出掛けたくなるカフェがほとんどないので、ここはとても貴重です。こんなカフェがもっと増えたらいいのにと思う天気のいい3月でした。
記事:九島辰也
by Ryota Takahashi | Mar 15, 2021 | FOOD / フード, IAM NEW
トスカーナのテロワールを物語るスピリッツ&リキュール
I spiriti & liquori raccontano la terroir della Toscana
フィレンツェから車で1時間半ほど、森の合間に葡萄畑やオリーブ畑が点在する典型的なキャンティ・クラシコの景色の中を進む。目指すはガイオーレ・イン・キャンティにある新しい蒸溜所「ワインスティラリー」だ。その名が示す通り、ワインとディスティラリーの融合、つまり、ワインを蒸留してスピリッツやリキュールを手がけるメーカーである。
ワインを語るとき、必ずでてくる言葉といえばテロワールとミクロクリマ。土地特性とその土地に見られる気候特性のことである。ワインの造り手は、葡萄を栽培する土地の土壌と気候がもたらす恩恵を、いかにワインの中に表現するかに心を砕く。つまり、ワイン造りにおける最も基本的で重要な軸でもある。それを蒸留酒でも表現したいと生まれたのが「ワインスティラリー」である。
同蒸溜所の母体は、ワイナリー「キオッチョリ・アルタドンナ」、グレーヴェ・イン・キャンティとガイオーレ・イン・キャンティに農地を持ち、ワイン(とオリーブオイル)を手がけている家族経営のワイナリーだ。「ワインスティラリー」はこのワインを蒸留し、ジン、ウォッカ、リキュールを作るという、トスカーナはおろか、イタリアでも他に例を見ないスタイルの製造を行なっている。
責任者を勤めるのは、マスター・ディスティラーのエンリコ・キオッチョリ・アルタドンナ。アメリカを旅した時にウイスキー蒸溜の面白さに魅了され、蒸溜所での経験を積んだ。大学では法学を学び、弁護士としての人生を歩むはずだったが、蒸留酒づくりの夢を諦められず、エノロゴ(ワインメーカー)である父親を説得して、自前の蒸溜所を設立したのだ。
ジンは複数のボタニカルの香味が特徴の蒸留酒だが、香りの中心となるのが名前の由来ともなったジュニパーベリー(ねずの実)。トスカーナはジュニパーベリーの特産地であり、イギリスの大手ジンメーカーもトスカーナのジュニパーベリーを使っているという。またジュニパーベリーには、殺菌、消化促進などの効能があるとされ、9世紀のサレルノ医学研究所でジュニパーベリーを使って蒸留した薬を作っていた記録が残っており、イタリアではこれがジンの始まりとも言われている。
一般にジンはベーススピリッツを購入し、各地からボタニカルを集めて仕込むことが多い。だから、トスカーナの「ワインスティラリー」が、自らの土地=テロワールとミクロクリマを表現するにあたり、自社ワインを蒸留し、そしてトスカーナのジュニパーベリーをはじめとするさまざまな地元産ボタニカルをジンで表現するという発想は非常にユニークである。ただ、それを実際に高いクオリティで実現することは簡単なことではない。いかに上質なベーススピリッツを蒸留するか、そしてどのボタニカルをどのような配合で抽出するか、実に細やかな神経を要する作業の連続であり、しかもその結果は傑出したものでなければ意味がないのである。
実際に、フラッグシップである「ロンドン・ドライ・ジン」を味わってみよう。ジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカ・ルート、イリス・ルート、オレンジピール、シナモンなど13種類のボタニカルを使用している。一般的にジンに使うベーススピリッツは穀物やトウモロコシなどを原料としたニュートラルスピリッツだが、マスター・ディスティラーであるエンリコによると、ニュートラルといってもやはり出自の性格は消えない。「ワインスティラリー」のベーススピリッツにはワイン由来の香りが微かに感じられ、そしてジュニパーベリー、コリアンダー、深い森を思わせる香り、柑橘の皮の香りなどが複雑に混ざり合い、「トスカーナの丘を散歩している」記憶を呼び起こすのだという。
もう一つ、「ワインスティラリー」のリキュールで人気があるのは、「タスカン・ベルモット」。ベルモットといえばトリノ生まれだが、その名前がつけられたというだけのことであり、ワインベースのリキュールはその当時のトスカーナでも造られていた。1773年に医師が記したトスカーナのワイン醸造に関する文書や、1736年発行のタウリネンシスTaurinensis調剤術にも、胃腸薬の効能があるとしてニガヨモギを浸漬したワインが紹介されている。「タスカン・ベルモット」は、そんなトスカーナの“ベルモット”の歴史を語るべく誕生したという。サンジョヴェーゼのワインをベースにクラシックなトスカーナのベルモットのスタイルを踏襲し、カラメルなどを一切使わずにワイン特有の紫を帯びた濃いルビー色を引き出している。スミレを思わせるフローラルな香りと赤いベリーの香り、そこにローズマリーとニガヨモギのスパイシーな香りが結びつき、華やぎの中に妖艶を醸し出す。そして果実の豊かな甘味と、その後にニガヨモギ特有のかすかな苦味の余韻が続く。ソーダで割ってもいいが、そのままメディテーションリキュールとしても楽しめる。
このほかに、柔らかな琥珀色で蜂蜜のような微かな甘味とナツメグの香りが印象的な「オールド・トム・ジン」、シルクのような滑らかさの中にワイン由来のミネラルの余韻が残るウォッカの「タスカン・ヴォドカ」、さらにアルコール度数70%ながら複雑な香りと味わいで圧倒されるロンドン・ドライ・ジンの「コッパ・ストレングス」(これで作ったジントニックは究極の美味しさという)、留液にサンジョヴェーゼの絞り滓を浸漬したジン・リキュール「スロー」がある。さらにまもなく、ビターも発売するという。設立から4年という若き蒸溜所が発信するトスカーナのスピリッツ&リキュールは、トスカーナの豊かさを物語る新しいアンバサダーとしてこれからも活動の場を広げそうだ。
ワインスティラリー
Winestillery
https://www.winestillery.it/
記事:池田愛美
by Ryota Takahashi | Mar 10, 2021 | AUTOMOTIVE / 自動車業界, IAM NEW
ABARTH 595
イタリア共和国が王国として誕生して150余年。ローマ帝国に象徴されるようにその足跡は長く深く残っています。都市国家としての成り立ちはローマ帝国時代以前ですからね。それに人類の発展と文化に強く影響を及ぼした人は数多く、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ガリレオ、マルコ・ポーロ云々と、誰もが知る偉人ばかり。いやはやこの人たちがいなかったらどうなっていたのか……。
というくらいイタリアの文化度は高く、進んでいます。自動車業界もまさにそうで、自動車創世記からレースをはじめクルマを文化的に捉えてきました。例えばこのアバルトというブランドがそうです。トリノの小さな工場で始まった会社が今日のようなイタリアを代表するブランドのひとつに育ったのですからカーカルチャーの深さを感じます。クルマを速く走らせること、それを趣味とする人がたくさん存在するということですかね。
アバルトの設立は1949年。レースでも使えるスポーツカーのパーツを作り始めました。その後フィアット500をベースとしたコンプリートカーを製作、50年代が終わる頃には“チューンナップ”というカテゴリーを確立させます。それからオリジナルのスポーツカーやレーシングカーを創出したのですが、その美しさも評判となりました。結果、会社規模は当初の20倍以上になります。フィアットグループの一員になったのは1971年。70年代後半は世界ラリー選手権でチャンピオンに輝きました。
さて、そんなアバルトの現在はというと、ご承知のようにグループ内でも独立したブランドとして確立しています。すべてのモデルに “チューンナップ”を世に知らしめた彼らの“味”が注がれます。フロントにはそれを象徴するサソリマークがキラリ輝きます。
そんなモデルの一つアバルト 595はフィアット500をベースに1900箇所にも改良を施したベーシックモデル。それを50年代の呼び名595と名付けました。エンジンは1.4リッター直4ターボで145ps。アバルト初体験者にベストチョイスかな。で、写真のイエローに塗られたドアミラーのモデルは595C ピスタ。ピスタはイタリア語のサーキットの意味。上級者のあなたにオススメの一台です
記事:九島辰也
by Ryota Takahashi | Mar 8, 2021 | FOOD / フード, IAM NEW
活火山エトナ生まれのプレミアム・ワイン
「エトナ・ノルド Etna Nord」
南イタリア最高峰、標高3326mのエトナ山は今も時折溶岩を吹き上げる活火山だ。先日はそのエトナ山に雪が積もり、雪と溶岩というなんとも珍しい光景がイタリアで話題となった。エトナ山麓は高い地熱や水はけが良い火山灰など、火山地帯ならではの特性を生かした農業が盛んだが近年では優秀なワインが続々と誕生している。ピエディモンテ・エトネオ Piedimonte Etneo、リングアグロッサ Linguaglossa、ソリッキアータSolicchiata、パッソピシャーロ Passopisciaro、ランダッツォ Randazzoとエトナ山北斜面には山肌に沿って小さな集落が点在しているけれど、特に優秀なワインを生み出しているのがソリッキアータとパッソピシャーロの中間に位置するカスティリオーネ・ディ・シチリア Castiglione di Siciliaだ。「エトナ・ノルド」はカスティリオーネ・ディ・シチリアの、小さいけれど意欲的な生産者が集まって作った新しいプレミアム・ワインだ。
エトナ山には噴火でできたクレーターが大小合わせて実に400以上あり、それぞれ火山岩と火山灰の比率や地形が異なる非常に複雑な土壌を形成している。最高地点の標高は3326mとイタリアの活火山の中でもずば抜けて高いことから高地は冷涼な気候でシチリアのアルプスとも呼ばれ、昼は暑いけれども夜は激しく冷え込み、1日の気温差は30度を超えることもある。温暖な地熱を利用してオレンジをはじめとした柑橘類の大規模栽培が行われている南斜面とは違って北斜面は降雨量も多いのだが、山から海へ常に吹く風がブドウを病気とは無縁の健康な状態に保ってくれているのだ。
「エトナ・ノルド」の主要メンバーの一人、ダヴィデ・ディ・ベッラ Davide Di Bellaが所有する5haの畑「テヌータ・アンティカ・カヴァッレリア Tenuta Antica Cavalleria」はカスティリオーネ・ディ・シチリアのコントラーダ(地区)カヴァレッリアとピエトラマリーナにまたがる標高600mの場所にある。カスティリオーネ・ディ・シチリアは多くのコントラーダから構成されているが、それぞれ地形も土壌も異なるコントラーダはミクロクリマを形成し、ワインをより複雑かつ個性的でエレガントなものに仕立ててくれるのだ。エトナ山の代表的な品種は黒ぶどうがネレッロ・マスカレーゼ Nerello Mascarese、白ぶどうがカッリカンテ Carricanteだがダヴィデが作るネレッロ・マスカレーゼはネッビオーロやピノ・ネロのようなニュアンスがある。事実ダヴィデが目標とするのはブルゴーニュやランゲのエレガントだがタンニンもしっかりとある長熟タイプのワインなのだ。
Etna Rosso DOC 「ダーム DAM」はそうしたダヴィデの指向を最も色濃く反映したワインだ。華やかで果実味あるネレッロ・マスカレーゼにネレッロ・カプッチョが力強さを加え、非常にバランスよく仕上がっている。ステンレスタンクで発酵させたあとフランス製トノーで15ケ月熟成させ、ダークチェリー、ブラックベリー、リコリス、バニラのようなニュアンス。あわせるならエトナ山西部ネブロディの黒豚「スイーノ・ディ・ネブロディ」で作るサルシッチャのグリルならば理想的。シチリアのテロワールを体感できる最良の組み合わせではないかと思う。一方ネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カプッチョで作るEtna Rosato DOC 「ダーメ DAME」は美しい桜色のロゼワイン。ほろ苦い後口、食中酒に最適。白い花、特にマーガレットや北方系のエーデルフラワーのような香りで、味わいは洋梨、若いチェリー、ピンク色のリンゴ。これは夏ならば冷たいカポナータ、あるいは若いフォルマッジョ・ラグサーノにあわせたい。
一方ダヴィデの共同経営者の一人、ジュゼッペ・プラタニア Giuseppe Plataniaがサンタ・ドメニカ地区で栽培するのは白ブドウ、カッリカンテとカタラット。Etna Bianco DOC 「ビザンティーノ BIZANTINO」シチリアに大いなる足跡を残したビザンチン文化へのオマージュ。カッリカンテの力強さが際立つ麦わら色のしっかりとした白ワインで、バリックで2〜3ケ月熟成させて仕上げる。アロマティック品種のような芳香に加えバナナやパイナップル、マンゴーなどのトロピカルフルーツの香り。味わいはレモンのようにシャープな酸もあり、ジネストラ(エニシダ)のような黄色い花の印象も感じる。シチリアらしいしっかりとした白はイワシのブカティーニやカジキのインヴォルティーニといった魚介料理と共味わえば、それはそれは素晴らしいはずだ。
コントラーダ・マルケーザにある畑、パパ・マリアで作られるのはEtna Rosso DOC 「マルケーザ Marchesa」とEtna Bianco DOC 「クオーレ・ディ・マルケーザ Cuore di Marchesa」だ。前者はトノーで20日果皮ごとしぼり汁に漬け込んだあと、素焼きのアンフォラで18ケ月熟成させて作る長熟タイプの赤。濃いルビー色でチェリーのジャム、ブラックベリー、ザクロといった香りでタンニンも滑らか。何よりも古代ローマ人が地中海交易に使用した素焼きのアンフォラで熟成させるというのが、なんともロマンがあっていいではないか。この赤ワインには濃厚なズッパ・ディ・ペッシェや羊の煮込みをあわせるのがベストか。一方白ワイン「クオーレ・ディ・マルケーザ」は10月下旬に収穫した樹齢60年のカッリカンテを使用。少量生産の限定ワインで、優しくおだやかな酸はウニや貝など魚介類の前菜や、アーティチョーク、若いトマトなどと相性がよさそうだ。
また、ダヴィデはプール付きのアグリツーリズモ「テヌータ・アンティカ・カヴァレリア」も所有しているので、次回シチリアを旅する機会に恵まれたら是非とも滞在してみたい。エトナ山が育むワインとピュアなシチリア料理を堪能。夜はエトナ山の夜景を眺めつつ眠りにつく。そんな旅がまた1日も早くできるようになることを祈りたい。
Etna Nord
記事:池田匡克
by Ryota Takahashi | Mar 3, 2021 | AUTOMOTIVE / 自動車業界, IAM NEW
モーターバレー
“モータウン”という言葉をご存知ですか。例えばモータウンミュージック。アメリカのミッドセンチュリーを語る上で欠かせないカルチャーですよね。なんか味があっていい感じ。元気になるというか。
ご存知のように、“モータウン”の語源は“モーター”と“タウン”です。ミシガン州デトロイト周辺のカーメーカーが集中していた場所を言います。デトロイト市内のゼネラルモータース、ディアボーンのフォードモーターカンパニー、アーバンヒルのクライスラーが代表的です。この他にもシボレー、オールズモビル、ビュイック、ポンティアック、ダッジなどもこのエリアで生まれました。
で、これと同じような場所がイタリアにもあります。通称“モーターバレー”と呼ばれている北イタリアのボローニャ周辺です。ここには、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ などのヘッドクォーターがあります。また、もう少し広いエリアで見ると、ロンバルディア州ミラノにアルファロメオ、ピエモンテ州トリノにフィアットがあります。カロッツェリアならザガート、ツーリング、ピニンファリーナ、イタルデザインもこのエリアです。
何が言いたいかというと、北イタリアはクルマ好きにはたまらない場所です。憧れのクルマの本社や工場、ミュージアムが建ち並んでいます。できるなら一週間くらいかけて一気に全部まわりたいですねー。仕事で何度か取材に伺っていますが、もっとゆっくりプライベートで足を運びたい。皆さんもそんなイタリア旅行を企ててみてはいかがですか?
記事:九島辰也
by Ryota Takahashi | Mar 1, 2021 | FOOD / フード, IAM NEW
ピッツァの進化が止まらない。最新ピッツァ事情
Movimenti della Pizza Contemporanea
ピッツァといえばナポリピッツァ。2010年にEUが定めるSTG(伝統的特産品保護)に認証され、2017年にユネスコの無形文化遺産に「ナポリピッツァ職人芸術」として登録されたことからも、ナポリ式ピッツァがイタリアのピッツァを代表するものであることに間違いはない。
しかし、イタリアにはナポリピッツァしかないわけではない。昔からそれぞれの土地で好まれてきたピッツァというものがあり、よく知られているところでは「ローマ風ピッツァ」(一般に、生地が極薄だとされる)や、南イタリア・バーリ風と呼ばれる分厚いパン生地のようなピッツァ、そのほかにも天板に生地を伸ばして焼き上げる「ピッツァ・アル・タッリオ」(切り売りピッツァ)などは全国どこにでもある。

これらはどれも“伝統的”と言われるピッツァであり、それに対して、“現代的”と呼ばれるピッツァも存在する。登場したのは90年代後半から2000年代初頭にかけて、ヴェネト州ヴェローナ近郊というのが定説だ。ピッツェリアを営む実家から独立したシモーネ・パドアンが「イ・ティッリ」という自らのレストランで、グルメ・ピッツァと呼ばれるメニューを提供したり、また、伝統的なナポリピッツァとともにさまざまな異なる発酵生地を使った実験的なピッツァで評判になったレナート・ボスコの「サポレ」など、ナポリから遠く離れた北でムーブメントが起きたのである。
では現代的ピッツァとは何かというと、
1 生地にこだわる
2 トッピングが伝統に縛られない
3 形状も自由
の3点が特徴で、1は、それまではピッツァ専用の粉を使うのが一般的だったが、それ以外の粉を試して目的にかなった粉を選び、ビール酵母以外の発酵種を使用したり、発酵時間を長くするといった工夫を凝らし、より軽く、消化の良い生地にする。2は、トッピングをただそのまま載せて焼くというのではなく、素材をあらかじめ調理し、焼きあがった生地に載せるのが基本。調理も低温調理など最新技術を取り入れ、テクスチャーの変化や素材の組み合わせの妙を楽しんでもらうことを目指す。3は円形に焼き上げた生地を一切れずつ切り分けたり、小さく丸く作ったりして、ワンポーションで楽しめるようにする。
今ではこのような現代的なピッツァを、ピッツァ・コンテンポラリーとかピッツァ・デグスタツィオーネと呼ぶようになっている。そして、この現代的ピッツァが伝統のナポリピッツァ界にも刺激をもたらし、スタイルとしてはあくまでも伝統を守りつつ、生地の配合や発酵に工夫を凝らしたり、トッピング素材を上質なものにしたり、よりヘルシーで満足度も高いピッツァを提供する店や職人がナポリほか各地で増えてきている。

フィレンツェは長らく、ナポリピッツァ一辺倒だったが、このほど本格的な現代的ピッツァの店「ラルゴノーヴェ」がオープンした。自らをリエヴィティスタ(発酵を操る者)と称するガブリエレ・ダーニが厨房で指揮をとり、ピッツァキッチンとそのほかの料理キッチンがそれぞれ独立している。ピッツァキッチンは全面ガラス張りで、客席からは伝統的なナポリピッツァの窯と最新の電気オーブンの間で仕事をする料理人たちの姿が見える、劇場型のピッツァレストランだ。
メニューは、「不滅の本物」と名付けられたナポリピッツァの項と「グルメ」と名付けられた項の二つに分かれており、「グルメ」の説明には「スチームで焼き上げた生地を6つに切り分け、一つずつトッピングを施したピッツァ」とある。このスチーム焼きというのは、過熱した高温の水蒸気で焼く方式(過熱水蒸気式)で、粉と水が同量という高加水率の生地をこの方法で焼き上げることにより、ごく軽く、しかも消化の良い生地を作り出す。さらに高温で乾燥焼きさせているので、表面はカリッと、中はさっくりふんわりという食感が生まれる。
従来のナポリピッツァはもっちりとした弾力があるのが特徴で、その噛み応えが満足感となっていたが、腹持ちよりも消化の良さを好み、余分な糖質や油脂の摂取量を抑えたいという現代人にはやや持て余し気味。しかし、このスチーム焼きのピッツァであればそれらの問題を解決するだけでなく、調理された具材の斬新な組み合わせや味わいが、ピッツァの持つカジュアルなイメージを塗り替え、ファインダイニングにも近い印象をもたらす。何よりも一切れずつ色々な味を楽しめるというデグスタツィオーネは、これまでのピッツァにはない概念だ。
「ラルゴノーヴェ」ではもう一つ、新しいスタイルを打ち出している。ピッツァと共に最新のミクソロジーも味わえるバーを設えたのだ。ピッツァのムーブメントよりもさらに後発だが、昨今のイタリアのミクソロジー界の動きは目覚しい。若く才能のあるバーテンダーがオリジナルのカクテルを次々と生み出し、コロナ禍にも関わらずミクソロジーバーが増加している。「ラルゴノーヴェ」で腕をふるうのは、フィレンツェでも随一と評判の女性バーテンダーで、繊細かつエッジの効いたカクテルを作り出す。ミクソロジーバーとしてアペリティーヴォだけを楽しんだり、そのあとテーブル席に移ってピッツァや料理を味わうこともできる。気分やシチュエーションに応じて使い分けができるところも、従来のピッツェリアにはないスタイルだ。
ミラノやローマといった大都市だけでなく地方でもピッツァ・ムーブメントは活発で、これからもピッツァとピッツァを取り巻く世界は変化を続けていくだろう。次はどんな動きが出てくるのか、当分目が離せない。
LARGONOVE
Via Largo Pietro Annigoni, 9 Firenze
Tel.055-245829 https://largo9.it
記事:池田愛美