Select Page
最新グルメ情報13ロックダウン中の楽しみ「ジェヌイーノ・デリバリー」

最新グルメ情報13ロックダウン中の楽しみ「ジェヌイーノ・デリバリー」

ロックダウン中の楽しみ「ジェヌイーノ・デリバリー」

イタリアにおけるコロナ禍も一進一退だが、ワクチン摂取が広まるに伴い、徐々にではあるが規制が緩和されつつある。ロベルト・スペランツァ Roberto Speranza厚生大臣が発表した4月26日からスタートする新規制によれば、トスカーナ、ロンバルディアなど15の州と自治州がZona Gialla(イエロー・ゾーン)に復活。レストランでも戸外の飲食が許可されるなど、昨年夏以来久しぶりにイタリアらしい日常生活が少しづつ戻ってきているよな気配がある。そんな状況を受けてか、フィレンツェでは新たなデリバリー・プロジェクト@ジェヌイーノ・デリバリー Genuino Delivery」がスタートした。

これは現状に苦しむレストランをサポートするとともに消費者に食の喜びをデリバリーで届ける新たな試みで、まず立ち上げメンバーとして「ネネ・パンツェロッティ Nenè Panzerotti「カリストロ Calistro」「ラ・ソスタ・デル・ロッセリーノ La Sosta del Rossellino」「ヌーラ Nura」の4軒のレストランが参加している。そのテーマは「ストリートフード」でフィレンツェから郊外のセッティニャーノ経由、カゼンティーノ、ベネヴェント、そしてインドへと至る壮大なストリートフード物語だ。確かに今現在イタリアでは多くのデリバリーが一気に登場、百花繚乱の様子を見せているがストリードフードが食べたくなる気持ちもよくわかる。なかなか故郷にも帰れないような状況の中、慣れ親しんだ郷土の味に触れたい、そんなニーズは確かにあるのだろう。

例えば4月23日〜29日の期間限定で「ネネ・パンツェロッティ Nenè-Panzerotti」が提案するのはパンツェロッティメニュー(クラシック x 1、お好みのグルメパンツェロッティ x 2つ(Boscaiolo, Gentile, Estroso)、スペシャル・パンツェロッティ・ジェヌイーノ(Wurstel del Menoni, Cipolla e cavolo cappuccio bio di Vaggio, Scamorza biologica di Poggio Camporbiano) +パンツェロッティ・ドルチェ(クリームまたはチョコレート)。プーリア生まれだが今やイタリア全国区の揚げパンファンはきっと多いことと思う。15ユーロ(2人用)

フィレンツェ郊外の高台にある「ラ・ソスタ・デル・ロッセリーノ La Sosta del Rosselino」は20年ほど前には足繁く通った店だが、シチリア出身の店主ダミアーノ Damianoはいまだに健在。4月30日〜5月6日にはシチリアのストリートフード・メニューを作ってくれる。手作り&揚げたてのアランチーニ、ノンナ・ローザのカポナータ、BIOひよこ豆粉Spighe Toscane使用パネッレ。故郷は遠くにありて思うもの、よくシチリア料理の話をしてくれたダミアーノが懐かしい。願わくばわたしも注文してみたい。20ユーロ(2人用)

詰め物パスタ・トルテッリはエミリア・ロマーニャ地方を代表するパスタだが、フリットにしてスナック代わりに食べることもある万能型パスタ。5月7日〜13日には「カリストロ Calistro」が考案した、トルテッリを使ったカゼンティーノのストリードフード・メニューが楽しめる。クラシックなグリル・トルテッリ+限定版のジェヌイーノ・トルテッリは12ユーロ。

最後を締めるのは5月15日〜21日、インド・ケララ料理の「ヌーラ Nura」。ガンベロ・ロッソでも紹介された本格インド料理店ではインド・ケララのストリートフード・メニュー(ベジ&ノンベジ)を提供する。例えばサモサ+パコラをベースに、タンドリーチキン、ケララサラダ、チリチキン、フライドエッグ、エビのモレー、ベジプラオ、パラクパニール、ココナッツライスなどをチョイスして料金は27〜31ユーロとかなりボリューミー。
このプロジェクト「ジェヌイーノ・デリバリー」の考案者であるキアラ・ブランディによれば、5月以降もシーズン2としてさらに多くのレストランによるストリートフード・デリバリー計画が進行中とのこと。興味ある人はアップデートに注目、注文は以下の公式サイトより。

www.genuinopuntozero.it

記事:池田匡克

最新グルメ情報12巣篭もり需要でオーガニック人気がますます磐石に

最新グルメ情報12巣篭もり需要でオーガニック人気がますます磐石に

巣篭もり需要でオーガニック人気がますます磐石に

オーガニック、イタリアではビオロジコと呼ばれる有機農法の食品が、パンデミックの影響で自宅で過ごすことが多くなった人々の関心を集めている。EUで共通のオーガニック食品のルールが定められたのは1991年。2007年にはそれまでのルールに変わって新たなルールが制定された。以来、小さな星で1枚の葉を描くマークがエチケットについた食品を目にする機会は、時が経つにつれ増えている。特に2015年ごろは対前年比18.5%と爆発的にビオロジコ食品の販売額が増えた。大手スーパーがPB製品にビオロジコのラインナップを加えたことが大きく関係しているという。

そして、パンデミック禍の現在、自宅で食事をする機会が増え、また、暮らしを見直してより健康的な食事をしようと考えている人が増えて、ビオロジコとそうでない製品があればビオロジコを選ぶ傾向は強まっている。イタリアで1978年からビオロジコ農産加工食品を製造販売する「アルチェ・ネーロ」社は昨年の売り上げが前年よりアップ。今まではスーパーや小売店に卸すか、eコマースで自社製品を販売していたが、40年以上の歴史で初めて直営店をオープンした。イタリア国内で1000軒の農家、中南米の小さな農家10000軒が関わっている「アルチェ・ネーロ」の400の商品を実際に見て購入することができるショップである。フランスにはビオロジコ専門の大規模なスーパーチェーンがあるが、イタリアは先述したように、スーパーのPBビオロジコが幅を利かせている。「アルチェ・ネーロ」の直営店がこれからどのように発展していくのかは気になるところだ。

一方、小さなビオロジコ専門店はイタリアの各地に数多く存在する。ヨガや食餌療法を実践している人が顧客の中心だが、そうした専門店はファミリー層や美食を好む人にはやや縁遠い。そこで、「体と環境に配慮した、美味しいビオロジコ」をテーマにした店が注目されるようになった。その一例がフィレンツェの「C.BIO(チー・ビオ)」だ。サンタンブロージョ市場界隈でリストランテ「チブレオ」「カフェ・チブレオ」「テアトロ・デル・サーレ」などいくつもの店を展開しているファビオ・ピッキが立ち上げたビオロジコ・スーパーである。Cibo buono, italiano e onesto(美味しく、正直なイタリアの食べ物)の頭文字を取った名前だが、チブレオのビオ、という意味にもかけている。

野菜や果物、パスタ・調味料・ジャムなどの保存食、惣菜、パン、チーズ、加工肉食品などの食品を中心に、洗剤や清掃道具、衣類、食器なども販売している。どれもファビオ・ピッキのお眼鏡にかなったものばかりだが、特に人気があるのは野菜、惣菜、パンだ。野菜はトスカーナの農家が直接運んでくる。ビオロジコ認定を受けているものと、受けていないがファビオ・ピッキとスタッフがビオロジコと同等(あるいはそれ以上に厳しいルールに則って)栽培しているもの、二つのグループに分かれて販売台に並ぶ。小規模農家が大半ゆえ、搬入できるときに搬入するという仕組みで、買い物をしていると農家の人が運んでくるのにいき当たることもある。大手スーパーでは考えられないが、人間的なシステムである。

惣菜は、レストランを営むチブレオ・グループにとってはお家芸とも言えるもの。トスカーナの伝統料理をひとひねりした、やや高級な惣菜である。しかも売れ残った野菜を使うことで廃棄率を限りなくゼロに近づけている点では、エシカルな惣菜とも言える。また、パンは、ファビオ・ピッキがその腕に惚れ込んでスカウトしたというパン職人による、粉の風味を引き出すことにこだわったパン。歯ごたえのしっかりとした、噛むほどに味わいの増すパンは満足度が高く、リピーターも多いという。

2018年の統計によると、ヨーロッパ各国の食品販売におけるビオロジコ製品の割合は、1位のデンマークで11%、そのあとにスウェーデン、オーストリアと続きイタリアは8位で3.2%。一方で、2019年に農地におけるビオロジコ農業が行われている割合は1位オーストリアが26%、2位エストニア、3位スウェーデン、そして4位がイタリアとチェコで15%。かつてイタリアでは、ビオロジコの認定を受け、そのマークをエチケットにつけるには少なからぬ費用がかかることから敬遠していた生産者も多かったが(小規模農家では今も多い)、消費者のビオロジコ志向を受け、これからも農地、製品販売共に増えていく可能性は大いにあるだろう。あとはどれだけ美味しいビオロジコ食品が増えていくか、健康と環境に良いだけでなく、やはり美味しいものが食べたいイタリアの消費者としては、そちらを期待していることは間違いない。

アルチェ・ネーロ https://www.alcenero.com
チー・ビオ https://www.cbio.it

データ出典:FiBL https://statistics.fibl.org/index.html

記事:池田愛美

最新グルメ情報11イタリア生まれの黒い酒「サケ・ネーロ SAKE NERO

最新グルメ情報11イタリア生まれの黒い酒「サケ・ネーロ SAKE NERO

イタリア生まれの黒い酒「サケ・ネーロ SAKE NERO」

近年イタリアでは日本酒がブーム、というよりすっかり定着しており「SAKE=酒」という日本語はもとより「JUNMAI=純米」「GINJO=吟醸」「DAIGINJO=大吟醸」「KOJI=麹」「UMAMI=旨味」 といった言葉もすっかり定着したようだ。そんなイタリアで100%イタリア産の黒米を使った、ちょっと変わったリキュールが登場した。その名も「SAKE NERO サケ・ネーロ=黒い酒」、その強烈なインパクトがイタリアで今話題になっている。

のっけから古い話で恐縮だが、1949年のイタリア映画「にがい米」を覚えている人はいるだろう か?シルヴァーナ・マンガノが主役を演じたこの映画のテーマは文字通り米。イタリア屈指の米どころヴェルチェッリには、収穫期になるとイタリアのあちこちから列車に揺られて季節労働の稲刈 り女性労働者「モンディーネ Mondine」たちがやってくる。その生活は実に厳しくて過酷な3K労 働の日々。ヒロインのシルヴァーナも短いモンディーネ人生を終えるのだが、ラストシーンで米は 実に重要な役割を果たしているので、まだ見てない人は是非一度見てみることをお勧めしたい。

「にがい米」の舞台となったヴェルチェッリは、昔も今も米どころとして栄えているが、現在は特にリゾット用の米の一大生産地をなっている。そのヴェルチェッリから今回誕生したのが「にがい米」ならぬ「黒い酒 サケ・ネーロ SAKE NERO」これはペネローペ Penelope種という黒米から作られたイタリア初のSAKEだ。とはいえ通常の日本酒のようにまず米を蒸してでんぷん質を糖化させ、 麹の働きによって糖をアルコール発酵させてつくっているわけでない。その意味で日本酒、ではなくSAKEなのだ。原材料となる黒米はリゾット用プレミアム米の第一人者と知られるアイローニ社 Aironiのもの。同社は日本でもすでにおなじみで、世界中の高級イタリア料理店で愛用されている米メーカーだ。

サンプルが届いたので早速この「サケ・ネーロ」を味わってみることにする。漆黒のケースから取り出して見ると、透明なガラス瓶の中にはバルサミコを思わせるような、茶色がかった黒い液体が。瓶を動かして見ると、ややとろみがかっているのがわかる。開封して香りを嗅いで見ると、ナ ツメグやシナモンの香りは日本酒ではなくベルモットを思わせる。アルコール度数17%と日本酒よりもやや高めだが、口に含むとややスモーキーなフレーバーに加え、黒飴を思わせるような甘み。日本酒よりもイタリアの食後酒アマーロやノチーノに近く、チーズやチョコレートをおともににちびちびやるのもよさそうだ。ともに試飲したシークレットバー「ラスプーチン」のバーテンダー、ダニエレ・カンチェッラーラは「アルコール度数は低いけれどこれはカクテルによさそうだ」という。

実際に「サケ・ネーロ」が提案しているミクソロジー=カクテルの例を見てみると、まず「オイラン・ ポイズン OIRAN POISON」(毒花魁?)はサケ・ネーロ30ml、ヴェルモット・アマーロ30ml、蓮の芽のビター4滴、豆茶で煎じたジン30ml。氷を満たしたショットグラスにジン以外の材料を注ぎ、最後にジンを静かにゆっくりと注ぐ。黒を基調としたグラデーションを見た目で楽しむプレゼンテー ションで、甘いけれどぴりっと苦い、そしてなかなか強い一杯。花魁にこの黒い酒を出されたならば一瞬ぎょっとなるだろうが、ええい毒をくらわば皿までよ、とばかりに飲み干したくなるそんな酒だろうか。

「ゲイシャ・ブレックファースト GEISHA BREAKFAST」(芸者朝食)はサケ・ネーロ40ml、ココナッツミルク30ml、はちみつミッレフィオーリ15ml、ヘーゼルナッツ・リキュール10ml。全ての材料を50gの氷とともにブレンダーに入れ高速で10秒間回す。出来上がったフローズンスタイルのカクテルを磁器の器に注ぎココナッツパウダーとエディブルフワラーを飾る。甘くてややエキゾチックなカクテルは、イタリア人にとっては芸者の朝食というイメージなのかも。

「リゾ・ウーヴァ・エ・モルト」直訳するならば「米、ブドウ、モルト」サケ・ネーロ30ml、バローロ・キナート30ml、アンゴストゥーラ・ビター4滴、ダブル・モルト・ビール30ml。全ての材料を氷を入れた小さめのカクテルグラスに注ぎ、静かにステア。最後にビールを注ぎ再びステア。サケ・ネーロとバローロ・キナートは従兄弟同士のような相性の良さを見せてくれるはずで、そこにビールとビターで苦味をプラス。米、ブドウ=ワイン、ビール=モルトという異なる製造法の酒3種類のブレンド。

「ペイント・イット・ブラック PAINT IT BLACK」ローリングストーズの楽曲にちなんだこのカクテルはサケ・ネーロ30ml、ベルガモットのロゾーリオ15ml、梅酒15ml、炭で風味をつけたシロップ15ml、ライム15ml、ラバルバロ(カラダイオウという薬草)のビター3滴。これは馴染みのない材料が多いので少々味が想像しにくいかもしれない。まず全ての材料を氷とともにシェイカーに入れ、10秒間強めにシェイクし、マグカップに注ぎ、ミントの葉を飾る。見た目は昔懐かしモスコミュー ル、苦さがほとばしる中にも甘さやベルガモット、梅の香りが心地よい、そんな大人の一杯のはず。何もかも忘れたい時、全部黒く塗りつぶしたくなる時にはとりあえずこいつを一杯。翌日ブラッ クアウトしないようにくれぐれも飲み過ぎには注意。

記事:池田匡克

最新グルメ情報10ティラミスを超えるブームになるか?! ローマ発の懐かしお菓子Maritozzo, il tipico dolce romano va di moda

最新グルメ情報10ティラミスを超えるブームになるか?! ローマ発の懐かしお菓子Maritozzo, il tipico dolce romano va di moda

ティラミスを超えるブームになるか?! ローマ発の懐かしお菓子
Martozzo, il tipico dolce romano va di moda

ここ数年、日本でも話題のマリトッツォ。丸いころんとしたパンにクリームを挟んだ菓子である。日本ではマリトッツィと呼ぶ人も多いが、普通一人一個しか食べないので、マリトッツォと単数形で呼ぶ方がしっくりくる。余談だが、同じことがカンノーロにも起こっていて、日本では一本でもカンノーリ。さらにパニーノに至ってはもはやパニーニでなくてはならず、単数で呼んだら直されてしまうこともある。
それはさておき、マリトッツォである。ラツィオ州の伝統発酵菓子であり、そもそもは粉、卵、はちみつ、バター、塩で作るパンで、かつては今よりももっと大型だったという。ただ、四旬節の時期は小さく作り、生地にはレーズン、松の実、砂糖漬けフルーツを混ぜて、焼き色もしっかりとつけ、「エル・サント・マリトッツォEr santo maritozzo」または「クアレジマーレQuaresimale」と呼んで、その節制の期間に唯一食べることが許された菓子だった。
マリトッツォの名前は、夫を意味するマリートmaritoが由来。3月の最初の金曜日に、男性が結婚を約束した女性へこのパンを贈るのが習わしだった。表面には天使が放つ矢に射抜かれた二つのハートが砂糖で描かれ、時には中に指輪などの小さな金細工が忍ばせてあったという。マリートを面白おかしくマリトッツォと呼び変えたところに、ローマ庶民に親しまれた風習だったことが伺える。しかし、時は移り、恋人同士のイベントはヴァレンタンインに取って代わられ、マリトッツォはいつしかバール・パスティッチェリアのショーケースの中に並ぶ、懐かしいおやつにおさまってしまった。

普通はそのまま、あるいは、スリットを入れて中にたっぷりのホイップクリームやカスタードクリームを挟む。形は丸くずんぐりしたものが多いが、マルケ州に伝わったマリトッツォは細長いドッグパンのよう、また、プーリアやシチリアでは編み込みパンのパターンも見られる。さらには、甘みを抑えて塩味の具を挟むスナックタイプもある。何れにしても、シンプルで気取りのない見た目で、それが却って愛らしくも思える。

最近はイタリアでも再注目されており、パン生地はより柔らかくホイップクリームもより軽く、大きさもやや小ぶりなものが人気。イタリアの菓子職人界のレジェンドと称されるイジニオ・マッサーリのミラノのパスティッチェリアでは、きらびやかなケーキがたくさんあるのに多くの人がマリトッツォを注文する。ほかのケーキに比べて値段が半分以下というのもあるのかもしれないが、皆、立ったまま嬉しそうに頬張っている姿を見ると、やっぱりただひたすら好きなのだろう。
パンにクリームを挟んだだけの単純な菓子は、考えたらどの国にもある。日本ならコッペパンに挟んだし、北欧のスウェーデンには丸パンにアーモンドペーストとホイップクリームを挟んだセムラがある。パンとクリームというのは鉄板の組み合わせというわけだ。
さて、実際に作ろうとするとちょっと手間がかかる。まず粉とイーストとぬるま湯で予備発酵種(リエヴィティーノlievitinoまたはビガbiga)を仕込まなければならない。これはイタリアのパンの最もベーシックな作り方で、少量の酵母で発酵力のある生地ができ、香りのいいパンとなる。準備の整った予備発酵種に粉、砂糖、牛乳、自然の香料(レモンの皮、オレンジの皮をすりおろしたもの、バニラビーンズ)を加えて練り、さらに卵、最後にバターまたはオリーブオイル、塩を加え、伝統的なマリトッツォであればさらにレーズンも加えてまとめ、発酵。切り分けて丸め、発酵させたら表面に卵黄を塗り、オーブンで焼く。
こうしてできたマリトッツォはビニール袋に入れて4、5日は保存ができる。食べるときにスリットを入れてホイップクリームをこれ以上は無理!というくらいに詰める。カンノーロと同じで、クリームを詰めたなるべく早く食べるのが鉄則。クリームの水分がパンに染み込んでふやけてしまうからだ。日本では苺などを挟んでより可愛らしく仕立てるのが人気だが、イタリアではあくまでも白いホイップクリーム一本勝負。食に頑固なお国ぶりがこんなところにも現れるのである。

イジニオ・マッサーリのパスティッチェリア
https://www.iginiomassari.it

その場でクリームを詰めてくれるローマのマリトッツォ専門店。夕方からオープン、一晩中マリトッツォが食べられることで有名(パンデミック以前)。
Il Maritozzaro Via Ettore Rolli, 50 Roma

ローマ・トラステヴェレ地区にある、さまざまなマリトッツォを提供するオステリアバール。アマトリチャーナ・マリトッツォなど実験的なマリトッツォも。
Il Maritozzo Rosso http://www.ilmaritozzorosso.com

記事:池田愛美

最新グルメ情報9料理やカクテルにフードフレグランスで香りをプラス

最新グルメ情報9
料理やカクテルにフードフレグランスで香りをプラス

料理やカクテルにフードフレグランスで香りをプラス

ミラノ発のフード・フレグランスは、料理の仕上げに使うとドラスティックにその印象を変える画期的なプロダクトだ。開発者はデザイナー、建築家でもあるアントネッラ・ボンディ Antonella Bondi。長年ミラノのデザイン、建築界で活躍しているが一時健康を害したことがあり、その際に柑橘類を中心とした食生活にしたところ症状が劇的に改善したという。その時にひらめいたのがこのフード・フレグランスだ。

アントネッラ・ボンディのフード・フレグランスはベルガモット、マンダリンなど南イタリアの柑橘類の他マダガスカルのバニラ、シリアのオリス根、グリーンオリーブ、グリーンレモンといった地中海的なものからユーカリ、コーヒー、バスクの海水などのユニークなものまで合計なんと350種類。全て天然素材のみから蒸留、抽出したナチュラルなプロダクトは料理やカクテルなどの飲料に使うとその効果が最大限に発揮できる。なによりも、持続性ある華やかな香りが最大の特徴だ。

アントネッラは有名シェフたちからの信頼も厚く、Wネームとしてローマのミシュラン3つ星ハインツ・ベック Heinz Beckやルレ・エ・シャトー Relais et Chateauxとのコラボ商品も展開している。また、2017年11月に世界一の料理人マッシモ・ボットゥーラ Massimo Botturaが来日、宮崎県延岡市で行われたフードイベントに参加した人は覚えているかもしれないが、あの時にボットゥーラが作った「リゾット・アル・カチョ・エ・ペペ Risotto al Cacio e pepe」の仕上げに使っていた白胡椒のスプレーがこのフード・フレグランスだったのだ。同じミシュラン3つ星シェフである「レ・カランドレ」 シェフ、マッシミリアーノ・アライモは常々こう言っている。「料理においてわたしは目に見えないもの、形のないものを大切にしたい。それは音や香りです」つまり現代のファイン・ダイニングの世界において香りとは非常に重要なエレメントなのだ。

また近年はカクテルの世界においても技術や素材の進化が著しい。それまでは高級レストランの厨房でしか使われることのなかった調理器具を使ったり、独自にリキュールやエッセンスを蒸留、焙煎して使用するミクソロジーの世界でのやはり香りというアイテムは非常に重要。アントネッラ はバーテンダーとのコラボにも意欲的で、スペインの「ムガリッツ Mugaritz」のソムリエ兼バーテンダー、デヴィッド・リオス David Riosの協力によりカクテル向きのラインも発表している。例えば Ketel One Votka, Green Chrtreuseにカラブリア産ベルガモット・フレグランスを使った「グリーン・ バジル・ミュール GREEN BASIL MULE」、Don Julio Blanco Tequila、ライムジュース、白い柑橘系のブレンド=Agrumi Bianchiのフレグランスを使った「フレスキート Fresquito」などは聞いただけで試してみたくなる一杯ではないか?また、器用なバーテンダーはカクテル作りの最後に、レモンやライムの皮をさっとしぼって仕上げてくれるが、フードフレグランスでカクテルを仕上げる、 そんな演出もきっと絵になるはずだ。

香りと健康の関係についても重要視するアントネッラはミラノIULM大学のヴィンチェンツォ・ルッソ Vincenzo Russo研究所長とともにメンタル・セラピーとリラクゼーション効果におけるフレグランスの効用についても研究。フード・フレグランスを活用して脳に障害を追った患者に香りで刺激を与え、リハビリを促す実践治療にも取り組んでいる。こうした多岐に渡る活動の源は何よりも香りの効果を信じ、実践しているアントネッラ本人の強い意志と、無限のブレンドが可能なフレグランスの特性にある。多くのシェフ、バーテンダーとのコラボが可能なのはオリジナル・ブレンドによるビスポーク(特注)が可能だからだ。

是非自分の料理、あるいはミクソロジーの世界に取り入れてみたい、オリジナル・ブレンドを提案してみたいというシェフ&バーテンダーには要注目アイテムだろう。まだまだ開発中の新製品も多く、先日アントネッラ本人からテストさせてもらったのはなんと「ピッツァ・マルゲリータ」や焼きたてのパンの香りがする「ブレッド・クラム」。こうしたユニークなフレグランスもアイディア次第ではレストラン、バー、パーティシーンなどガストロノミーにおける無限の可能性を秘めている。

日本での問い合わせ
SAPORITA [email protected]

記事:池田匡克

最新グルメ情報8春を告げる鳥 復活祭のコロンバPortaprimavera. La Colomba pasquale

最新グルメ情報8
春を告げる鳥 復活祭のコロンバ
Portaprimavera. La Colomba pasquale

春を告げる鳥 復活祭のコロンバ
Portaprimavera. La Colomba pasquale

カーニバルが終わると、スーパーや菓子店の一番目立つところに並び始めるのが卵型のチョコレート、その次に目につくのがコロンバだ。コロンバ・パスクアーレとも呼ばれる、鳩(コロンバ)をイメージした復活祭の発酵菓子である。「え、どこが鳩?」と思うほど、かなりデフォルメされた鳩だが、1930年代にミラノの製菓会社モッタがクリスマスのパネットーネの生地を活かせないかと編み出したのが始まりである。パネットーネと同じであれば、型はなるべく凹凸がなく均一に火が入るようなフォルムが望ましい。ギリギリ「鳩かも」と思える妥協点があの形だったのだろう。ともあれ、鳩をかたどった復活祭の菓子はシチリアなどにもあり、鳩をこの時期の菓子のモチーフにすること自体はかなり昔からあったという。

よく語られるのは、聖コロンバーノ(コロンバヌス)にまつわる伝説だ。6世紀のアイルランドに生まれたコロンバーノは、キリスト教修道士として守るべきこと行うべきことを規範としてまとめ、ヨーロッパ各地に修道院や教会を設立した人物である。コロンバーノがローマ教皇の謁見を求めて南下の旅をしていた時、ミラノを訪れ、当時イタリアを支配していたロンゴバルド(ランゴバルド)族の王アジルルフォ(アギルルフス)と王妃テオドリンダの食客となった。当時、イタリア北西部の司教たちは、東方教会とローマ教皇がコンスタンティノープル公会議(553年に開催された第5回会議)で採択した結論に反発し、政治問題に発展していた。アジルルフォ王はコロンバーノにこの問題の解決を依頼、コロンバーノは西側(コモ)と東側(アクイレイア)の司教を話し合いの席につけることに成功。王はコロンバーノに謝意を表し、祝宴を設けたのだが、折しも時節は四旬節(肉食を断ってキリストの復活を祈る時期)、食卓に並んだ数々の肉料理にコロンバーノは手をつけなかった。それを侮辱ととった王と王妃がコロンバーノを責めたところ、食卓上の料理の鳩が白い羽を羽ばたかせて飛び立っていったという。この逸話から、聖コロンバーノの象徴は鳩となり、復活のシンボルともされ、復活祭に鳩をかたどった菓子を供えるようになったと言われる。ちなみに、食卓にあった鳩料理が、鳩の形をした甘いパンになったという説もある。

聖コロンバーノは登場しないが、やはり、ロンゴバルド族の時代を舞台にしたもう一つの伝説では、初代の王となったアルボイーノ(アルボイン)が3年の包囲ののち入城を果たしたパヴィアで、地元のパン職人から鳩の形をした甘いパンを「復活祭に捧げる平和のシンボル」として贈られたことに由来するという。残忍な性格だったとされるアルボイーノにコロンバを平和の印だと贈るのは、嫌味と捉えられればそれこそ斬首に処される危険がある。だから、実際にはそのような出来事はなかったのかもしれないが、バルバロ(バーバリアン、蛮族)と呼バレるロンゴバルド族によるイタリア征服は、イタリアの歴史にとって暴力的非文化的な時代の始まりを意味する。それゆえに平和のシンボル=鳩が重要なアイコンとなったという希望を込めた伝説なのだろう。

20世紀のコロンバは、先にも述べたようにミラノのMotta社が作り出した。パネットーネと同じように全国区の菓子として成長させるにはどうしたらいいかと考えた当時の社長アンジェロ・モッタは、出来上がったコロンバを著名な作家やジャーナリストに送り、効果的な宣伝文を考えて欲しいと依頼した。それに答えた科学者であり医者であったエルネスト・ベルタレッリは「コロンバはノアの時代にまで遡る平和の印であり、仔羊よりもずっとシンプルで血なまぐささがない。このコロンバは平和と春を意味するお菓子だ」と書いている。こうしたMotta社の大々的な宣伝のおかげで、コロンバの知名度は高まり、ミラノ発祥の菓子として定着。ロンバルディア州のP.A.T.(Prodotti Agroalimentari Tradizionali イタリア農林食品政策省が定める州ごとの伝統的食品)にも認定されている。

コロナ禍の今、それまでは製菓会社やパスティッチェリア、ベーカリーがコロンバの作り手だったのが、そこに星付きレストランも参入している。通常の営業ができない今はテイクアウトやオンラインショップで次々と新商品を発表しているところが多いが、ファインダイニングには人手と高い技術があるゆえ、コンテンポラリーでハイレベルなコロンバが登場しているのだ。例えば、アブルッツォの三つ星リストランテ「レアーレ」のオーナーシェフであるニコ・ロミートの「ラ・コロンバ・ニコ・ロミート」は、吟味した素材を使い、バターの一部を乳化させたシチリアのオーガニック・アーモンドに替え、ごく軽い生地に仕立てている。また、ピエモンテの二つ星「ヴィッラ・クレスピ」のアントニーノ・カンナヴァッチュオロのオンラインショップでは、オレンジとレモンの柑橘をたっぷり使ったクラシック・コロンバのほか、オレンジとチョコレート、リモンチェッロの三種類を販売しているが、そのパッケージの華やかさに目を奪われる。ディテールにもこだわった斬新なコロンバが生み出されたのも、今回のパンデミックの功罪の一つかもしれない。

ニコ・ロミートのコロンバ
https://www.nikoromito.com/negozio/

アントニーノ・カンナヴァッチュオロのコロンバ
https://shop.antoninocannavacciuolo.it

記事:池田愛美