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最新グルメ情報7トスカーナ生まれのアートなジン「ジンアルテ」

最新グルメ情報7
トスカーナ生まれのアートなジン
「ジンアルテ」

トスカーナ生まれのアートなジン「ジンアルテ」

フィレンツェを代表するファッション・デザイナー、ロベルト・カヴァッリはファッション同様ワインと食を馬を愛し、トスカーナの田園地帯に暮らすことを好んだ趣味人だった。彼が馬を育て、ワインを作るために購入したワイナリーは現在息子であるトッマーゾ・カヴァッリが管理、運営しキャンティ・クラッシコを中心としたワイン作りに精を出しているが、近年リリースしたのがアーティステッィクなジン「ジンアルテ」だ。

フィレンツェから国道222号線、いわゆるキャンティ街道を南下すること約30分。キャンティ・クラッシコ・エリアでは「黄金の盆地=コンカ・ドーロ」と呼ばれるパンツァーノ・イン・キャンティの一角に「テヌータ・デッリ・デイ Tenuta degli Dei」はある。これは日本語にするなら「神々の農園」となるが、それはフィレンツェを代表するかのファッショ ン・デザイナー、ロベルト・カヴァッリに由来する。彼は1970年代にこの農園を購入。以 前からカヴァッリ Cavalli=馬という名字ゆえか馬に対する愛着が非常に強く、ファッション・ビジネス同様の情熱を注いで馬を飼育、競走馬として販売するビジネスを始めたのだった。

当時ロベルト・カヴァッリから片時も離れることなく常に寄り添っていたのがジャーマン・ シェパードの「ディドーネ・デッリ・デイ」。ロベルトも愛情をこめて「ルーポ Lupo= 狼」と呼んで愛したのだが、ディドーネがこの世を去ると生前の面影を偲び、この農園に愛犬の名前をつけたのだった。現在はロベルトの息子トンマーゾ・カヴァッリ Tommaso Cavalliが「テヌータ・デッリ・デイ」を受け継いでいるが馬への愛情は父親譲り。若い頃か ら父ロベルトともに馬を飼育し、ワイン作りの現場に携わって来たトンマーゾはファッショ ンの世界ではなく田舎暮らしを選び、24時間全てを馬とワイン、そしてアートに注いでい る。美しい自然の中でストレスフリーで育てられた馬は1才半を迎えると売りに出され、やがて多くのファンが見守る中華々しく競走馬としてデビューする。一体何十頭、何百頭の競 走馬がこの「テヌータ・デッリ・デイ」に生まれ育ち、世界へと旅立っていったのだろう。

ワイン作りにおいては有名醸造家ルカ・ダットーマを招聘し、トスカーナの代表品種サン ジョヴェーゼだけでなくカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローといった品種も栽培。いずれもハイクオリティな3種類の赤ワインを製造している。しかしマッテオが近年最も力を入れ、製作に力を注いでいる最新作がトスカーナ産のボタニカル(植物)を使用したアーティ スティックなドライ・ジン「ジンアルテ Ginarte」だ。

トンマーゾが目指したのはトスカーナのテロワールだけでなく文化や歴史も反映したジン作り。アーティスティックな才能もまた父親譲りのマッテオはルネサンスの芸術家たちが絵具として使用した13種類のボタニカル(植物)をジン作りに採用している。「ジンアルテ」の原材料であるネピテンサ=Nepitella、ベニバナ=Cartamoといったトスカーナに自生する植物は、バルジェッロ美術館に多数収められているロッビア工房 Robbiaの彩色テラコッタの原材料でもある。また、パッケージングには画家や写真家、デザイナー、ストリート・ アーティストらを起用し、ボトルを白いキャンバスに見立てて自由に創作する機会も与えている。昨年からはメキシコ政府の協力により、フリーダ・カーロをデザイン・モチーフにした限定版を発表。これはフリーダ・カーロが生前に追求した多様性、創造性、象徴性といっ た現代にも通じる概念を通じ、ジンを媒介にアートの世界を旅するという画期的なプロジェクトなのだ。

アートに囲まれた「テヌータ・デッリ・デイ」でトンマーゾとともに「ジンアルテ」を味わう。爽やかな中に甘さも漂うジュニパーベリー=ネズの実特有の香りだけでなく、セージやローリエなどいわゆる地中海性灌木=Macchia mediterraneaの香りがあちこちに隠れている。実に華やかなジンなのだが、トンマーゾが目指したのは華やかさが前面に出るのではなく、あくまでも辛口でキレのあるドライなジン。ミシェラツィオーネ Miscelazione=カク テルとしての汎用性を重視し、アーティスックなジンの世界を広く楽しんでほしいという。 近年イタリア、特にトスカーナではミクソロジー・ブームの高まりもありジンの生産が非常に盛んだが、それはトスカーナのジェニパーベリーが非常に高品質で、世界のジン・メーカーに珍重されていることにイタリア人自身も気づいたからだ。続々と登場するメイド・イ ン・イタリーのジンは日本にも徐々に登場しつつあるが、次はトンマーゾ・カヴァッリが作る「ジンアルテ」に注目したい。

https://www.ginarte.it/

記事:池田匡克

最新グルメ情報6トスカーナのテロワールを物語るスピリッツ&リキュールI spiriti & liquori raccontano la terroir della Toscana

最新グルメ情報6
トスカーナのテロワールを物語るスピリッツ&リキュール
I spiriti & liquori raccontano la terroir della Toscana

トスカーナのテロワールを物語るスピリッツ&リキュール
I spiriti & liquori raccontano la terroir della Toscana

フィレンツェから車で1時間半ほど、森の合間に葡萄畑やオリーブ畑が点在する典型的なキャンティ・クラシコの景色の中を進む。目指すはガイオーレ・イン・キャンティにある新しい蒸溜所「ワインスティラリー」だ。その名が示す通り、ワインとディスティラリーの融合、つまり、ワインを蒸留してスピリッツやリキュールを手がけるメーカーである。
ワインを語るとき、必ずでてくる言葉といえばテロワールとミクロクリマ。土地特性とその土地に見られる気候特性のことである。ワインの造り手は、葡萄を栽培する土地の土壌と気候がもたらす恩恵を、いかにワインの中に表現するかに心を砕く。つまり、ワイン造りにおける最も基本的で重要な軸でもある。それを蒸留酒でも表現したいと生まれたのが「ワインスティラリー」である。

同蒸溜所の母体は、ワイナリー「キオッチョリ・アルタドンナ」、グレーヴェ・イン・キャンティとガイオーレ・イン・キャンティに農地を持ち、ワイン(とオリーブオイル)を手がけている家族経営のワイナリーだ。「ワインスティラリー」はこのワインを蒸留し、ジン、ウォッカ、リキュールを作るという、トスカーナはおろか、イタリアでも他に例を見ないスタイルの製造を行なっている。
責任者を勤めるのは、マスター・ディスティラーのエンリコ・キオッチョリ・アルタドンナ。アメリカを旅した時にウイスキー蒸溜の面白さに魅了され、蒸溜所での経験を積んだ。大学では法学を学び、弁護士としての人生を歩むはずだったが、蒸留酒づくりの夢を諦められず、エノロゴ(ワインメーカー)である父親を説得して、自前の蒸溜所を設立したのだ。

ジンは複数のボタニカルの香味が特徴の蒸留酒だが、香りの中心となるのが名前の由来ともなったジュニパーベリー(ねずの実)。トスカーナはジュニパーベリーの特産地であり、イギリスの大手ジンメーカーもトスカーナのジュニパーベリーを使っているという。またジュニパーベリーには、殺菌、消化促進などの効能があるとされ、9世紀のサレルノ医学研究所でジュニパーベリーを使って蒸留した薬を作っていた記録が残っており、イタリアではこれがジンの始まりとも言われている。
一般にジンはベーススピリッツを購入し、各地からボタニカルを集めて仕込むことが多い。だから、トスカーナの「ワインスティラリー」が、自らの土地=テロワールとミクロクリマを表現するにあたり、自社ワインを蒸留し、そしてトスカーナのジュニパーベリーをはじめとするさまざまな地元産ボタニカルをジンで表現するという発想は非常にユニークである。ただ、それを実際に高いクオリティで実現することは簡単なことではない。いかに上質なベーススピリッツを蒸留するか、そしてどのボタニカルをどのような配合で抽出するか、実に細やかな神経を要する作業の連続であり、しかもその結果は傑出したものでなければ意味がないのである。

実際に、フラッグシップである「ロンドン・ドライ・ジン」を味わってみよう。ジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカ・ルート、イリス・ルート、オレンジピール、シナモンなど13種類のボタニカルを使用している。一般的にジンに使うベーススピリッツは穀物やトウモロコシなどを原料としたニュートラルスピリッツだが、マスター・ディスティラーであるエンリコによると、ニュートラルといってもやはり出自の性格は消えない。「ワインスティラリー」のベーススピリッツにはワイン由来の香りが微かに感じられ、そしてジュニパーベリー、コリアンダー、深い森を思わせる香り、柑橘の皮の香りなどが複雑に混ざり合い、「トスカーナの丘を散歩している」記憶を呼び起こすのだという。

もう一つ、「ワインスティラリー」のリキュールで人気があるのは、「タスカン・ベルモット」。ベルモットといえばトリノ生まれだが、その名前がつけられたというだけのことであり、ワインベースのリキュールはその当時のトスカーナでも造られていた。1773年に医師が記したトスカーナのワイン醸造に関する文書や、1736年発行のタウリネンシスTaurinensis調剤術にも、胃腸薬の効能があるとしてニガヨモギを浸漬したワインが紹介されている。「タスカン・ベルモット」は、そんなトスカーナの“ベルモット”の歴史を語るべく誕生したという。サンジョヴェーゼのワインをベースにクラシックなトスカーナのベルモットのスタイルを踏襲し、カラメルなどを一切使わずにワイン特有の紫を帯びた濃いルビー色を引き出している。スミレを思わせるフローラルな香りと赤いベリーの香り、そこにローズマリーとニガヨモギのスパイシーな香りが結びつき、華やぎの中に妖艶を醸し出す。そして果実の豊かな甘味と、その後にニガヨモギ特有のかすかな苦味の余韻が続く。ソーダで割ってもいいが、そのままメディテーションリキュールとしても楽しめる。

このほかに、柔らかな琥珀色で蜂蜜のような微かな甘味とナツメグの香りが印象的な「オールド・トム・ジン」、シルクのような滑らかさの中にワイン由来のミネラルの余韻が残るウォッカの「タスカン・ヴォドカ」、さらにアルコール度数70%ながら複雑な香りと味わいで圧倒されるロンドン・ドライ・ジンの「コッパ・ストレングス」(これで作ったジントニックは究極の美味しさという)、留液にサンジョヴェーゼの絞り滓を浸漬したジン・リキュール「スロー」がある。さらにまもなく、ビターも発売するという。設立から4年という若き蒸溜所が発信するトスカーナのスピリッツ&リキュールは、トスカーナの豊かさを物語る新しいアンバサダーとしてこれからも活動の場を広げそうだ。

ワインスティラリー
Winestillery
https://www.winestillery.it/

記事:池田愛美

最新グルメ情報5活火山エトナ生まれのプレミアム・ワイン「エトナ・ノルド Etna Nord」

最新グルメ情報5
活火山エトナ生まれのプレミアム・ワイン
「エトナ・ノルド Etna Nord」

活火山エトナ生まれのプレミアム・ワイン
「エトナ・ノルド Etna Nord」

南イタリア最高峰、標高3326mのエトナ山は今も時折溶岩を吹き上げる活火山だ。先日はそのエトナ山に雪が積もり、雪と溶岩というなんとも珍しい光景がイタリアで話題となった。エトナ山麓は高い地熱や水はけが良い火山灰など、火山地帯ならではの特性を生かした農業が盛んだが近年では優秀なワインが続々と誕生している。ピエディモンテ・エトネオ Piedimonte Etneo、リングアグロッサ Linguaglossa、ソリッキアータSolicchiata、パッソピシャーロ Passopisciaro、ランダッツォ Randazzoとエトナ山北斜面には山肌に沿って小さな集落が点在しているけれど、特に優秀なワインを生み出しているのがソリッキアータとパッソピシャーロの中間に位置するカスティリオーネ・ディ・シチリア Castiglione di Siciliaだ。「エトナ・ノルド」はカスティリオーネ・ディ・シチリアの、小さいけれど意欲的な生産者が集まって作った新しいプレミアム・ワインだ。

エトナ山には噴火でできたクレーターが大小合わせて実に400以上あり、それぞれ火山岩と火山灰の比率や地形が異なる非常に複雑な土壌を形成している。最高地点の標高は3326mとイタリアの活火山の中でもずば抜けて高いことから高地は冷涼な気候でシチリアのアルプスとも呼ばれ、昼は暑いけれども夜は激しく冷え込み、1日の気温差は30度を超えることもある。温暖な地熱を利用してオレンジをはじめとした柑橘類の大規模栽培が行われている南斜面とは違って北斜面は降雨量も多いのだが、山から海へ常に吹く風がブドウを病気とは無縁の健康な状態に保ってくれているのだ。

「エトナ・ノルド」の主要メンバーの一人、ダヴィデ・ディ・ベッラ Davide Di Bellaが所有する5haの畑「テヌータ・アンティカ・カヴァッレリア Tenuta Antica Cavalleria」はカスティリオーネ・ディ・シチリアのコントラーダ(地区)カヴァレッリアとピエトラマリーナにまたがる標高600mの場所にある。カスティリオーネ・ディ・シチリアは多くのコントラーダから構成されているが、それぞれ地形も土壌も異なるコントラーダはミクロクリマを形成し、ワインをより複雑かつ個性的でエレガントなものに仕立ててくれるのだ。エトナ山の代表的な品種は黒ぶどうがネレッロ・マスカレーゼ Nerello Mascarese、白ぶどうがカッリカンテ Carricanteだがダヴィデが作るネレッロ・マスカレーゼはネッビオーロやピノ・ネロのようなニュアンスがある。事実ダヴィデが目標とするのはブルゴーニュやランゲのエレガントだがタンニンもしっかりとある長熟タイプのワインなのだ。

Etna Rosso DOC 「ダーム DAM」はそうしたダヴィデの指向を最も色濃く反映したワインだ。華やかで果実味あるネレッロ・マスカレーゼにネレッロ・カプッチョが力強さを加え、非常にバランスよく仕上がっている。ステンレスタンクで発酵させたあとフランス製トノーで15ケ月熟成させ、ダークチェリー、ブラックベリー、リコリス、バニラのようなニュアンス。あわせるならエトナ山西部ネブロディの黒豚「スイーノ・ディ・ネブロディ」で作るサルシッチャのグリルならば理想的。シチリアのテロワールを体感できる最良の組み合わせではないかと思う。一方ネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カプッチョで作るEtna Rosato DOC 「ダーメ DAME」は美しい桜色のロゼワイン。ほろ苦い後口、食中酒に最適。白い花、特にマーガレットや北方系のエーデルフラワーのような香りで、味わいは洋梨、若いチェリー、ピンク色のリンゴ。これは夏ならば冷たいカポナータ、あるいは若いフォルマッジョ・ラグサーノにあわせたい。

一方ダヴィデの共同経営者の一人、ジュゼッペ・プラタニア Giuseppe Plataniaがサンタ・ドメニカ地区で栽培するのは白ブドウ、カッリカンテとカタラット。Etna Bianco DOC 「ビザンティーノ BIZANTINO」シチリアに大いなる足跡を残したビザンチン文化へのオマージュ。カッリカンテの力強さが際立つ麦わら色のしっかりとした白ワインで、バリックで2〜3ケ月熟成させて仕上げる。アロマティック品種のような芳香に加えバナナやパイナップル、マンゴーなどのトロピカルフルーツの香り。味わいはレモンのようにシャープな酸もあり、ジネストラ(エニシダ)のような黄色い花の印象も感じる。シチリアらしいしっかりとした白はイワシのブカティーニやカジキのインヴォルティーニといった魚介料理と共味わえば、それはそれは素晴らしいはずだ。

コントラーダ・マルケーザにある畑、パパ・マリアで作られるのはEtna Rosso DOC 「マルケーザ Marchesa」とEtna Bianco DOC 「クオーレ・ディ・マルケーザ Cuore di Marchesa」だ。前者はトノーで20日果皮ごとしぼり汁に漬け込んだあと、素焼きのアンフォラで18ケ月熟成させて作る長熟タイプの赤。濃いルビー色でチェリーのジャム、ブラックベリー、ザクロといった香りでタンニンも滑らか。何よりも古代ローマ人が地中海交易に使用した素焼きのアンフォラで熟成させるというのが、なんともロマンがあっていいではないか。この赤ワインには濃厚なズッパ・ディ・ペッシェや羊の煮込みをあわせるのがベストか。一方白ワイン「クオーレ・ディ・マルケーザ」は10月下旬に収穫した樹齢60年のカッリカンテを使用。少量生産の限定ワインで、優しくおだやかな酸はウニや貝など魚介類の前菜や、アーティチョーク、若いトマトなどと相性がよさそうだ。

また、ダヴィデはプール付きのアグリツーリズモ「テヌータ・アンティカ・カヴァレリア」も所有しているので、次回シチリアを旅する機会に恵まれたら是非とも滞在してみたい。エトナ山が育むワインとピュアなシチリア料理を堪能。夜はエトナ山の夜景を眺めつつ眠りにつく。そんな旅がまた1日も早くできるようになることを祈りたい。

Etna Nord

記事:池田匡克

最新グルメ情報4ピッツァの進化が止まらない。最新ピッツァ事情Movimenti della Pizza Contemporanea

最新グルメ情報4
ピッツァの進化が止まらない。
最新ピッツァ事情
Movimenti della Pizza Contemporanea

ピッツァの進化が止まらない。最新ピッツァ事情
Movimenti della Pizza Contemporanea

ピッツァといえばナポリピッツァ。2010年にEUが定めるSTG(伝統的特産品保護)に認証され、2017年にユネスコの無形文化遺産に「ナポリピッツァ職人芸術」として登録されたことからも、ナポリ式ピッツァがイタリアのピッツァを代表するものであることに間違いはない。
しかし、イタリアにはナポリピッツァしかないわけではない。昔からそれぞれの土地で好まれてきたピッツァというものがあり、よく知られているところでは「ローマ風ピッツァ」(一般に、生地が極薄だとされる)や、南イタリア・バーリ風と呼ばれる分厚いパン生地のようなピッツァ、そのほかにも天板に生地を伸ばして焼き上げる「ピッツァ・アル・タッリオ」(切り売りピッツァ)などは全国どこにでもある。

これらはどれも“伝統的”と言われるピッツァであり、それに対して、“現代的”と呼ばれるピッツァも存在する。登場したのは90年代後半から2000年代初頭にかけて、ヴェネト州ヴェローナ近郊というのが定説だ。ピッツェリアを営む実家から独立したシモーネ・パドアンが「イ・ティッリ」という自らのレストランで、グルメ・ピッツァと呼ばれるメニューを提供したり、また、伝統的なナポリピッツァとともにさまざまな異なる発酵生地を使った実験的なピッツァで評判になったレナート・ボスコの「サポレ」など、ナポリから遠く離れた北でムーブメントが起きたのである。
では現代的ピッツァとは何かというと、
1 生地にこだわる
2 トッピングが伝統に縛られない
3 形状も自由
の3点が特徴で、1は、それまではピッツァ専用の粉を使うのが一般的だったが、それ以外の粉を試して目的にかなった粉を選び、ビール酵母以外の発酵種を使用したり、発酵時間を長くするといった工夫を凝らし、より軽く、消化の良い生地にする。2は、トッピングをただそのまま載せて焼くというのではなく、素材をあらかじめ調理し、焼きあがった生地に載せるのが基本。調理も低温調理など最新技術を取り入れ、テクスチャーの変化や素材の組み合わせの妙を楽しんでもらうことを目指す。3は円形に焼き上げた生地を一切れずつ切り分けたり、小さく丸く作ったりして、ワンポーションで楽しめるようにする。
今ではこのような現代的なピッツァを、ピッツァ・コンテンポラリーとかピッツァ・デグスタツィオーネと呼ぶようになっている。そして、この現代的ピッツァが伝統のナポリピッツァ界にも刺激をもたらし、スタイルとしてはあくまでも伝統を守りつつ、生地の配合や発酵に工夫を凝らしたり、トッピング素材を上質なものにしたり、よりヘルシーで満足度も高いピッツァを提供する店や職人がナポリほか各地で増えてきている。

フィレンツェは長らく、ナポリピッツァ一辺倒だったが、このほど本格的な現代的ピッツァの店「ラルゴノーヴェ」がオープンした。自らをリエヴィティスタ(発酵を操る者)と称するガブリエレ・ダーニが厨房で指揮をとり、ピッツァキッチンとそのほかの料理キッチンがそれぞれ独立している。ピッツァキッチンは全面ガラス張りで、客席からは伝統的なナポリピッツァの窯と最新の電気オーブンの間で仕事をする料理人たちの姿が見える、劇場型のピッツァレストランだ。

メニューは、「不滅の本物」と名付けられたナポリピッツァの項と「グルメ」と名付けられた項の二つに分かれており、「グルメ」の説明には「スチームで焼き上げた生地を6つに切り分け、一つずつトッピングを施したピッツァ」とある。このスチーム焼きというのは、過熱した高温の水蒸気で焼く方式(過熱水蒸気式)で、粉と水が同量という高加水率の生地をこの方法で焼き上げることにより、ごく軽く、しかも消化の良い生地を作り出す。さらに高温で乾燥焼きさせているので、表面はカリッと、中はさっくりふんわりという食感が生まれる。

従来のナポリピッツァはもっちりとした弾力があるのが特徴で、その噛み応えが満足感となっていたが、腹持ちよりも消化の良さを好み、余分な糖質や油脂の摂取量を抑えたいという現代人にはやや持て余し気味。しかし、このスチーム焼きのピッツァであればそれらの問題を解決するだけでなく、調理された具材の斬新な組み合わせや味わいが、ピッツァの持つカジュアルなイメージを塗り替え、ファインダイニングにも近い印象をもたらす。何よりも一切れずつ色々な味を楽しめるというデグスタツィオーネは、これまでのピッツァにはない概念だ。

「ラルゴノーヴェ」ではもう一つ、新しいスタイルを打ち出している。ピッツァと共に最新のミクソロジーも味わえるバーを設えたのだ。ピッツァのムーブメントよりもさらに後発だが、昨今のイタリアのミクソロジー界の動きは目覚しい。若く才能のあるバーテンダーがオリジナルのカクテルを次々と生み出し、コロナ禍にも関わらずミクソロジーバーが増加している。「ラルゴノーヴェ」で腕をふるうのは、フィレンツェでも随一と評判の女性バーテンダーで、繊細かつエッジの効いたカクテルを作り出す。ミクソロジーバーとしてアペリティーヴォだけを楽しんだり、そのあとテーブル席に移ってピッツァや料理を味わうこともできる。気分やシチュエーションに応じて使い分けができるところも、従来のピッツェリアにはないスタイルだ。
ミラノやローマといった大都市だけでなく地方でもピッツァ・ムーブメントは活発で、これからもピッツァとピッツァを取り巻く世界は変化を続けていくだろう。次はどんな動きが出てくるのか、当分目が離せない。

LARGONOVE
Via Largo Pietro Annigoni, 9 Firenze
Tel.055-245829 https://largo9.it

記事:池田愛美

最新グルメ情報33つ星シェフ、ニーダーコフラーの大著Cook The Mountain

最新グルメ情報3
3つ星シェフ、
ニーダーコフラーの大著
Cook The Mountain

3つ星シェフ、ニーダーコフラーの大著
Cook The Mountain

ドロミティ山中、サンカシアーノにある「サント・ウベルトゥス St.Hubertus」シェフ、ノルベルト・ニーダーコフラー Norberto Niederkoflerは地元に根ざした山の料理を標榜する料理人だ。現在58才のニーダーコフラーは、外国のレストランや「ダル・ペスカトーレ」などでの経験を経たのち生まれ故郷のドロミティに戻り、1996年「サント・ウベルトゥス」のシェフに就任。ドロミティの食材しか使わないというクチーナ・ミクロ・テリトリアーレ=極小地域料理の先駆者であり、2018年にはミシュラン3つ星に輝いた。また、2021年度版ミシュランより採用されたサステイナブル・レストランへの評価「Stella verde=緑の星」を獲得したことも記憶に新しい。そのニーダーコフラーの大著「クック・ザ・マウンテン Cook The Mountain」が昨秋発売されたので早速取り寄せてみた。

手元に届いたのは38 x 33cmという超大判で重量はなんと4kg超。ドロミティの美しい自然とニーダーコフラーの料理、山に暮らす人々のポートレートなどからなる写真集と、80のレシピをおさめたレシピ集という2冊セットは、実に頑丈な化粧箱に収められていたのだ。「クック・ザ・マウンテン」というタイトルにピンときた人は、おそらく実際に「サント・ウベルトゥス」に足を運んだことがある人だろう。というのも「サント・ウベルトゥス」のメニューにはこう書かれているからだ。「Viaggio verso Identità Cook the mountain アイデンティティへの旅 クック・ザ・マウンテン=山を料理する」

サンカッシアーノは標高1537mという高地にあり、ヴェネト側ならコルティーナ・ダンペッツォ、アルト・アディジェ側ならばボルツァーノ、あるいはブレッサノーネから車でのアクセスが必要になる。高原の花が咲き乱れる夏は山岳リゾートとして、一方雪に埋もれる冬にはスキー客で賑わう。アルタ・バディアと呼ばれるこの地域は希少言語ラディン語を話す人々が暮らす秘境だ。こうした地域特性を発展させたガストロノミーはフード・エクスペリエンス=食の体験という言葉と置き換えられ、世界の美食家たちが憧れる約束の地でもある。ニーダーコフラーは地元でとれる季節の食材のみを使用し、それまで日が当たらなかった食材や農産物への再評価、あるいは食品廃棄を最小限に抑えることなど自然と共生し、山に暮らすには必要不可欠な行動と選択をガストロノミーレベルへと昇華させたものだ。

例えばTartare di Coregone2016は、ヨーロッパの高地に生息する淡水魚コリゴーネ=ホワイトフィッシュのタルタル。これは山岳地帯でしか体験することができない味。Insalata di erbe di montagna2010はまさにドロミティの自然を味わうインサラータ。近年ガストロノミーの世界ではさまざまなマイクロハーブやエディブルフラワーを多用したインサラータ=サラダが人気だが、ニーダーコフラーのインサラータは夏のドロミティでしか出会えない希少な味と香りに満ちている。

Anguilla & Camomilla2017は地元でとれたウナギをドロミティに自生するカモミールのインフュージンとともに食べるはかなくもかぐわしい料理。こうした山の香りを食卓へと届けることはニーダーコフラーが最重要視していることであり「クック・ザ・マウンテン」にはこう書かれている。「Quando riesco a far sentire alle persone il profumo ed il sapore familiari della mia terra, sono semplicemente felice. 慣れ親しんだこの地の香りと味を感じていただけたなら、わたしは幸せです」都会の料理に飽きた時、新しいインスピレーションを得たい時、そしていまはかなわないが旅に出たい時、「クック・ザ・マウンテン」を少しづつ眺めているだけで旅と料理に対する新たな感情が湧き上がってくるのを抑えられなくなるはずだ。ドイツ語版は「2020年度ドイツ料理本アワード金賞」受賞。

判型:イタリア語 オールカラー560P 4.11kg 33.3 x 8.1 x 38 cm ハードカバー 2020年10月12日発売(Suedwest Verlag刊)

記事:池田匡克

最新グルメ情報2カーニバルの時期限定春待ちのお菓子Dolci di Carnevale

最新グルメ情報2
カーニバルの時期限定
春待ちのお菓子
Dolci di Carnevale

カーニバルの時期限定、春待ちのお菓子

カーニバルといえば、ロココな衣装で着飾った貴族の仮面舞踏会風のコスプレイヤーが集うヴェネツィアが有名だが、イタリア各地、特にリゾート地では巨大な人形や動物、ファンタジックなキャラクターを乗せた山車のパレードが行われることも多い。ほとんどは子供向けだと思うが、ゆるキャラのようなものではなく結構グロテスクな造形のものもあったりして、日本との感覚の違いを感じさせてくれる。

ところでこのカーニバル、キリスト教、特にカトリックにおける移動祝祭なのだが、その語源には諸説あり、ラテン語のカルネム・レヴァーレcarnem levare(eliminare la carne、肉を断つ)から来ているという説が最も信憑性が高いと言われる。キリスト教暦では、春の復活祭の前にその準備期間として四旬節があり、この期間は肉食を絶って心身を清めることになっているのだ。具体的にいつなのかというと、春分の日の後の最初の満月の次の日曜日が復活祭、その前の40日間(日曜日を含めると46日間)が節制の四旬節で、その前にどんちゃん騒ぎをしおこうというわけである。

しかし、実はキリスト教以前から、古代ギリシャのディオニュソス祭(アンテステリエ=春の到来をワインで祝う祭り)や古代ローマのサトゥルナリア祭(農神サトゥルヌスを讃える祝祭、12月17〜23日)などが人々の暮らしに根付いていた。これらの祝祭では、普段の社会的ルールや身分の違いなどを無視して無礼講で楽しみ、祭が終わると、“新しい”秩序のもとでルールに則った暮らしを始めるのが習わしだった。古い年を捨て、新しい年を迎えるための儀式というところは、日本の大晦日と元旦に似ているかもしれない。ともかくこの世俗の習慣が、キリスト教以降はカーニバルとして定着したのだと考えられている。

カーニバルの時期には、特別なお菓子が街の菓子店やパン屋、スーパーなどに並ぶ。土地によって伝統的な食文化が明確に異なるイタリアだから、カーニバルのお菓子にも土地柄が現れる。ただ、一つ共通する特徴としてあげられるのが、揚げ菓子が多いこと。中でも代表的なのは、薄く伸ばした生地を適当に切り分けて油で揚げ、粉砂糖をふったお菓子で、古代ローマ時代にはすでに作られていたという。土地によって以下のように呼び名が違うがほぼ全国で似たようなものが存在する。
ブジーエ(リグーリア)
チェンチ、ストラッチ、フラッポレ、クロジェッティ(トスカーナ)
キアッキェレ(ロンバルディア、マルケ、アブルッツォ、プーリア、バジリカータ、カンパーニア、シチリア)
チョッフェ(モリーゼ)
クロストリ、クロストイ、ガラーニ(フリウリ、ヴェネト)
グロストリ(トレンティーノ)
フィオッキ、フィオッケッティ(マルケ)
フラッペ(ラツィオ、ウンブリア、エミリア)
ラットゥーゲ、スフラッポレ(エミリア・ロマーニャ)
スフラッペ(マルケ、エミリア・ロマーニャ)

もう一つ、揚げ菓子といえば、一口大のフリッテッレもカーニバル菓子の代表格。ヴェネトが発祥という説があり、オーストリアの揚げ菓子クラプフェンが17世紀にフリウリやヴェネトに伝わり、形が変化したというのがその理由。粉と卵、砂糖、牛乳などで作った柔らかい生地をくるみ大に丸めて揚げる。生地にオレンジピールとレーズンを加えたり、りんご、あるいは牛乳で煮た米を加えることも。さらに揚げた後でクレーマ・パスティッチェーラ(カスタードクリーム)やチョコレートクリームを詰めるバージョンもある。仕上げに粉砂糖をふる場合もあるが、より粒の粗いグラニュー糖をまぶした方がいかにも甘そうで、ジャリジャリとした食感が背徳的というか、乱痴気騒ぎのカーニバルにはこの方が合うように思う。

トスカーナ、特にフィレンツェでは、薄い揚げせんべい(チェンチ)、揚げ団子(フリッテッレ)と並んで、スキャッチャータ・アッラ・フィオレンティーナがご当地カーニバル菓子である。そもそもはパン生地に砂糖、ラード、スパイス、オレンジの皮としぼり汁を加えたものが始まりとも言われる。イーストを使って発酵させた生地を長方形の型に入れて焼いた、高さ3〜4cmほどのスポンジケーキで、表面に粉砂糖をたっぷりとふりかける。さらにフィレンツェの紋章、ジッリオをココアで描くことも多い。シンプルにそのまま、あるいはスライスして2段に分け、間にホイップクリーム、またはクレーマ・シャンティッリと呼ばれるホイップクリームとカスタードクリームを混ぜたものを挟むバージョンもある。さっくりとした独特の食感でクリームとの相性がいい。
見た目は素朴でも、ちょっと手間がかかるので、家で作るというよりも菓子店で買うのが一般的。本当はカーニバルの最後の火曜日マルテディ・グラッソの時だけに食べるものらしいが、今では1月6日のエピファニアが終わった途端にお目見えする。復活祭が来るまでの間、この特別なお菓子を一度と言わず何度でも、おやつやデザートはもちろん、朝食にもせっせと楽しんで、春を待つのである。

記事:池田愛美

フィレンツェでカーニバル菓子を買うなら

Pasticceria Nencioni
Via Pietrapiana, 24r http://www.pasticcerianencioni.com
1950年創業。店内手前はカウンター中心のバール、奥に小さなティールーム。

Forno Top
Via della Spada, 23 https://www.fornotop.it
トルナブオニ通りのすぐ近く、種類豊富なパンと焼き菓子の店。

Antica Pasticceria Sieni
Via Dell’Ariento,29 https://www.pasticceriasieni.com
中央市場そばのバール・パスティッチェリア。トスカーナ伝統菓子が中心。

I Dolci di Patrizio Cosi
Borgo degli Albizi, 15r http://www.pasticceriacosifirenze.it
手作りの素朴な伝統菓子を得意とするバール・パスティッチェリア。

La Loggia degli Albizi
Borgo degli Albizi, 39r
小さなテラス付きのバール・パスティッチェリア。ナポリ・シチリアの菓子も。