巣篭もり需要でオーガニック人気がますます磐石に
オーガニック、イタリアではビオロジコと呼ばれる有機農法の食品が、パンデミックの影響で自宅で過ごすことが多くなった人々の関心を集めている。EUで共通のオーガニック食品のルールが定められたのは1991年。2007年にはそれまでのルールに変わって新たなルールが制定された。以来、小さな星で1枚の葉を描くマークがエチケットについた食品を目にする機会は、時が経つにつれ増えている。特に2015年ごろは対前年比18.5%と爆発的にビオロジコ食品の販売額が増えた。大手スーパーがPB製品にビオロジコのラインナップを加えたことが大きく関係しているという。
そして、パンデミック禍の現在、自宅で食事をする機会が増え、また、暮らしを見直してより健康的な食事をしようと考えている人が増えて、ビオロジコとそうでない製品があればビオロジコを選ぶ傾向は強まっている。イタリアで1978年からビオロジコ農産加工食品を製造販売する「アルチェ・ネーロ」社は昨年の売り上げが前年よりアップ。今まではスーパーや小売店に卸すか、eコマースで自社製品を販売していたが、40年以上の歴史で初めて直営店をオープンした。イタリア国内で1000軒の農家、中南米の小さな農家10000軒が関わっている「アルチェ・ネーロ」の400の商品を実際に見て購入することができるショップである。フランスにはビオロジコ専門の大規模なスーパーチェーンがあるが、イタリアは先述したように、スーパーのPBビオロジコが幅を利かせている。「アルチェ・ネーロ」の直営店がこれからどのように発展していくのかは気になるところだ。
一方、小さなビオロジコ専門店はイタリアの各地に数多く存在する。ヨガや食餌療法を実践している人が顧客の中心だが、そうした専門店はファミリー層や美食を好む人にはやや縁遠い。そこで、「体と環境に配慮した、美味しいビオロジコ」をテーマにした店が注目されるようになった。その一例がフィレンツェの「C.BIO(チー・ビオ)」だ。サンタンブロージョ市場界隈でリストランテ「チブレオ」「カフェ・チブレオ」「テアトロ・デル・サーレ」などいくつもの店を展開しているファビオ・ピッキが立ち上げたビオロジコ・スーパーである。Cibo buono, italiano e onesto(美味しく、正直なイタリアの食べ物)の頭文字を取った名前だが、チブレオのビオ、という意味にもかけている。
野菜や果物、パスタ・調味料・ジャムなどの保存食、惣菜、パン、チーズ、加工肉食品などの食品を中心に、洗剤や清掃道具、衣類、食器なども販売している。どれもファビオ・ピッキのお眼鏡にかなったものばかりだが、特に人気があるのは野菜、惣菜、パンだ。野菜はトスカーナの農家が直接運んでくる。ビオロジコ認定を受けているものと、受けていないがファビオ・ピッキとスタッフがビオロジコと同等(あるいはそれ以上に厳しいルールに則って)栽培しているもの、二つのグループに分かれて販売台に並ぶ。小規模農家が大半ゆえ、搬入できるときに搬入するという仕組みで、買い物をしていると農家の人が運んでくるのにいき当たることもある。大手スーパーでは考えられないが、人間的なシステムである。
惣菜は、レストランを営むチブレオ・グループにとってはお家芸とも言えるもの。トスカーナの伝統料理をひとひねりした、やや高級な惣菜である。しかも売れ残った野菜を使うことで廃棄率を限りなくゼロに近づけている点では、エシカルな惣菜とも言える。また、パンは、ファビオ・ピッキがその腕に惚れ込んでスカウトしたというパン職人による、粉の風味を引き出すことにこだわったパン。歯ごたえのしっかりとした、噛むほどに味わいの増すパンは満足度が高く、リピーターも多いという。
2018年の統計によると、ヨーロッパ各国の食品販売におけるビオロジコ製品の割合は、1位のデンマークで11%、そのあとにスウェーデン、オーストリアと続きイタリアは8位で3.2%。一方で、2019年に農地におけるビオロジコ農業が行われている割合は1位オーストリアが26%、2位エストニア、3位スウェーデン、そして4位がイタリアとチェコで15%。かつてイタリアでは、ビオロジコの認定を受け、そのマークをエチケットにつけるには少なからぬ費用がかかることから敬遠していた生産者も多かったが(小規模農家では今も多い)、消費者のビオロジコ志向を受け、これからも農地、製品販売共に増えていく可能性は大いにあるだろう。あとはどれだけ美味しいビオロジコ食品が増えていくか、健康と環境に良いだけでなく、やはり美味しいものが食べたいイタリアの消費者としては、そちらを期待していることは間違いない。
アルチェ・ネーロ https://www.alcenero.com
チー・ビオ https://www.cbio.it
データ出典:FiBL https://statistics.fibl.org/index.html
記事:池田愛美