Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

最新グルメ情報81ボッリート・ミストの真髄、モデナの「 トラットリア・ビアンカ」

 

ボッリート・ミストの真髄、モデナの「 トラットリア・ビアンカ」

 

ボッリートミストとは牛や鶏、豚などさまざまな肉をブロードで茹で、少量づつ切り分けて食べる冬のご馳走で、特にピエモンテ州とボローニャ以西エミリア地方が名高い。まだ春には少々遠い冬のモデナで訪れた「トラットリア・ビアンカ Trattoria Bianca」は1948年創業の老舗。現オーナーのジュゼッペ・タタリーニの祖母が始めたオステリアがその前身だ。夜の開店食後に訪れた時はわたしが一番乗りだったが、あれよあれよと常連客が訪れ、気がつくと広い店内はモデナ料理を楽しみにしているイタリア人でいっぱいになっていた。

プリモはこれもエミリア地方の伝統的クチーナ・ポーヴェラ、今風にいうならアンティスプレーコ料理であるパッサテッリ・イン・ブロード。これは硬くなったパンを削ったパン粉にパルミジャーノ、玉子、ナルメグ、胡椒、レモンの皮で作った生地を専用の器具で押し出して作る小麦粉を使わないパスタで、去勢雄鶏=カッポーネで作ったブロードに落として直接茹でるスープ・パスタ。寒いエミリア地方の冬には無性に恋しくなる時がある。ブロードはしっかり目の味付けでおそらくは鶏と牛のミックス。ブロードだった。そしてメインが「トラットリア・ビアンカ」名物のボッリート・ミストだ。

エミリア地方の老舗では、自慢のボッリート・ミストは特製のワゴン「カレッロ」で登場する。これは電気式で保温できるようになっており、客の前まで運んで目の前で肉をカット、サーブできる専用のワゴン・テーブルだ。カレッロを自ら運んで来てくれた店主のジュゼッペは、まるで古いワインを大事に抜栓するソムリエのごとく、ひとつひとつ丁寧に部位を説明してくれたのち、これまたひとつひとつ丁寧に切り分けてくれた。牛のすね肉レッソ、去勢雄鶏カッポーネの胸肉、牛の鼻や耳などを詰め物にしたムゼット(これはややアンモニア臭があった)、柔らかく煮込んだ牛タン、リングア、そして牛のしんたまに相当するカッペッラ・デイ・プレーティ。ソースはマントヴァ特産のモスタルダ、アンチョビとケイパーとプレッツェーモロで作るサルサ・ヴェルデ、ペペローネ3種をみじん切りにしてオイルとヴィネガーにつけたペペローネのソース、そして粗塩。これらをそれぞれ肉に少しづつつけながら味わうのがエミリア地方で最も豪勢な肉料理だ。一番美味しかったのはやはり定番のサルサ・ヴェルデとカッポーネ、リングアの組み合わせだった。

肉汁がブロードに溶け出さないように、また肉が固くならないように真空パックしてから低温調理するのが現代のイタリア料理界ではトレンドだが、そうした現代の方法論に背を向けるかのように頑ななまでに伝統的調理法を守っているのがこの「トラットリア・ビアンカ」だ。ボットゥーラはつねづねいう。伝統はノスタルジックではなくクリティカルな眼差しで見つめないといけない、と。それは伝統料理を盲目的に尊重するのではなく本当にこの調理法でいいのか?と自らに問うことが料理人としてのスタートだ、という意味なのだがそれも伝統料理をきちんと知ってからでないと意味がない。温故知新のイタリア料理はイタリアの古いトラットリアには必ず残っているのだから、こうした古い店で伝統料理を食べ歩くことは必ずや将来の自分に何かをもたらしてくれるはずだ。そして何より何十年もの間多くの客たちを満足させて来た老舗からは、学ぶべきものは実に数多くあるのだ。


www.trattoriabianca.it
Via Spaccini, 24 Modena
Tel059-311524

 

 

 

記事:池田匡克

 

料理を待つ間に登場したのは、焼きたての玉子とズッキーニのキッシュ。とはいえフランス風のバター入り折りパイ生地ではなく、おそらくはニョッコフリットに使うラード入りの生地。歯ごたえあるざっくりした食感がエミリア風だった。前菜はエミリア地方に来たなら避けて通れないニョッコ・フリットとサルーミ・ミスティはモルタデッラ、サラーメ、プロシュット、ズブリッチョローラ。薄めの生地でできたニョッコ・フリットにこうしたサルーミ類をのせると脂が溶け出し、なんともいえない芳香が漂い始めるのだ。

プリモはこれもエミリア地方の伝統的クチーナ・ポーヴェラ、今風にいうならアンティスプレーコ料理であるパッサテッリ・イン・ブロード。これは硬くなったパンを削ったパン粉にパルミジャーノ、玉子、ナルメグ、胡椒、レモンの皮で作った生地を専用の器具で押し出して作る小麦粉を使わないパスタで、去勢雄鶏=カッポーネで作ったブロードに落として直接茹でるスープ・パスタ。寒いエミリア地方の冬には無性に恋しくなる時がある。ブロードはしっかり目の味付けでおそらくは鶏と牛のミックス。ブロードだった。そしてメインが「トラットリア・ビアンカ」名物のボッリート・ミストだ。

エミリア地方の老舗では、自慢のボッリート・ミストは特製のワゴン「カレッロ」で登場する。これは電気式で保温できるようになっており、客の前まで運んで目の前で肉をカット、サーブできる専用のワゴン・テーブルだ。カレッロを自ら運んで来てくれた店主のジュゼッペは、まるで古いワインを大事に抜栓するソムリエのごとく、ひとつひとつ丁寧に部位を説明してくれたのち、これまたひとつひとつ丁寧に切り分けてくれた。牛のすね肉レッソ、去勢雄鶏カッポーネの胸肉、牛の鼻や耳などを詰め物にしたムゼット(これはややアンモニア臭があった)、柔らかく煮込んだ牛タン、リングア、そして牛のしんたまに相当するカッペッラ・デイ・プレーティ。ソースはマントヴァ特産のモスタルダ、アンチョビとケイパーとプレッツェーモロで作るサルサ・ヴェルデ、ペペローネ3種をみじん切りにしてオイルとヴィネガーにつけたペペローネのソース、そして粗塩。これらをそれぞれ肉に少しづつつけながら味わうのがエミリア地方で最も豪勢な肉料理だ。一番美味しかったのはやはり定番のサルサ・ヴェルデとカッポーネ、リングアの組み合わせだった。

肉汁がブロードに溶け出さないように、また肉が固くならないように真空パックしてから低温調理するのが現代のイタリア料理界ではトレンドだが、そうした現代の方法論に背を向けるかのように頑ななまでに伝統的調理法を守っているのがこの「トラットリア・ビアンカ」だ。ボットゥーラはつねづねいう。伝統はノスタルジックではなくクリティカルな眼差しで見つめないといけない、と。それは伝統料理を盲目的に尊重するのではなく本当にこの調理法でいいのか?と自らに問うことが料理人としてのスタートだ、という意味なのだがそれも伝統料理をきちんと知ってからでないと意味がない。温故知新のイタリア料理はイタリアの古いトラットリアには必ず残っているのだから、こうした古い店で伝統料理を食べ歩くことは必ずや将来の自分に何かをもたらしてくれるはずだ。そして何より何十年もの間多くの客たちを満足させて来た老舗からは、学ぶべきものは実に数多くあるのだ。


www.trattoriabianca.it
Via Spaccini, 24 Modena
Tel059-311524

 

 

 

記事:池田匡克