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現代イタリア映画情報2「幸福なラザロ」監督:アリーチェ・ロルヴァケル

2018年度第71回カンヌ映画祭で最優秀脚本賞を受賞した「幸福なラザロ」(伊:Lazzaro felice)は現代のイタリア映画界を代表するアリーチェ・ロルヴァケル監督による自身3作目の長編映画だ。

コンテンポラリーな映画には珍しく、語り手方式を採用した本作は自身で執筆した脚本に、時代を超越する寓話を通じてイタリアという国の重大な変化を物語っている。

ロルヴァケルは、30年という隔たりを経た2つの時代(1970年代の終わりと2000年代の初め)を映画の時代背景に設定にすることにより、一見短いその期間に真の革命があったことを観客に示している。

Lazzaro felice

その革命とは本来低所得者層に権利を与える(これは本質的にキリスト教の理想だったこと)という目的を元々持っていたのにも関わらず、結果的には新たな「奴隷制度」を作り出してしまったというもの。それはピア・パオロ・パソリーニからエルマンノ・オルミ、エトーレ・スコラという他の偉大なイタリア監督たちが伝えたかったことともリンクしており、ロルヴァケルは彼らのレガシーを守りながらも個人的な解釈を加えて語っていたと思われる。

イタリアで「最も美しい330の村」というリストに含まれているチヴィタ・ディ・バーニョレージョ(ラツィオ州)をロケ地として選んだのは、先述の過去の偉大な作品へのリスペクトとも言えるだろう。

Lazzaro felice

イタリア国内での技術革新の波から「隔離」された少作人の家族は貪欲な侯爵に仕えて労力を搾取されている。そんな中休暇で帰省した侯爵の息子が少作人の青年ラザロ(アドリアーノ・タルディオーロ:ウンブリア州内の学校で行われたオーディション後、ロルヴァケルによって選ばれた素朴な雰囲気の新人俳優。恐らくロルヴァケルはその素朴さに惹かれた)と親交を深めるというストーリーだ。

お気づきの方もいるかもしれないが、ラザロは死後キリストの一言で復活を遂げた新約聖書の登場人物「ラザロ」をモチーフにしており、ストーリーからもその多くを読み取れる。

Lazzaro felice

監督をつとめたロルヴァケルは映画「幸福なラザロ」を通じて、多くの先進諸国と同様イタリアが国としてどのように社会を構築してきたのか?そして富裕層に奉仕していた多くの庶民に平等性を与えるはずだった民主化がなぜ失敗したのか?これらの問いかけを「マジックリアリズム」を上手く使い観客へ投げかけている。

イタリアの田舎の過去(実際には、無知と抑圧によって傷つけられた歴史の一部)を悔やむのではなく「幸福なラザロ」は私たちに、幸福の本質やそして人生のなかで本当に重要なことは何かという疑問を投げかけ、「自由」の意味について考えさせ、モノよりも人々の中に幸福の出発点を見出すことができる映画だ。