チェラスオーロ・ダブルッツォに捧げるスペシャル・ディナー
先日アブルッツォ・ワイン保護協会の招待で現地にワイナリー取材に行った時のことだ。連日ペコリーノ、トレッビアーノ、モンテプルチアーノという代表的ワインをそれこそ朝から晩まで試飲し続け、レストランやワイナリーを連日何件も訪問した。中でも最終日に開催されたスペシャル・ディナー・イベント「スッラ・ヴィア・デル・ローザ Sulla Via del Rosa」を紹介したい。
これはアブルッツォを代表するロゼワイン「チェラスオーロ・ダブルッツォ」に捧げられたスペシャル・ディナーで、同ワインのアペリティーヴォから初めて料理のペアリングも全て同じく全てロゼ。さらにレストランの外観もロゼ色にライトアップされていて関係者たちは密かにピンク・ディナーとも呼んでいたことは公然の秘密だ。
会場となったのはマリーナ・ディ・サン・ヴィートにあるレストラン「アンゴリーノ・ダ・フィリッポ1891」。アドリア海のシーフードを使った魚介料理で名高い一軒家レストランだ。この夜はスペシャルメニューで、まず前菜は「小ダコの煉獄風 Moscardino in Purgatorio」煉獄とはダンテの「神曲」に描かれているように天国と地獄の中間的世界。一般的にイタリア料理では「悪魔風」「煉獄風」とは唐辛子を使った辛い料理が多いが、これも同じくモスカルディーノという地中海固有の小ダコをやや辛めのトマトソースで柔らかく茹で、ジャガイモのピューレを添えた料理。あわせたのはアブルッツォ南部ヴァスト近郊にあるワイナリー「タラモンティ」の「モンテプルチアーノ・ダブルッツォ」。
パスタは2種類で最初が「ヒシコイワシ、アルティーノのペペローネ・ドルチェのニョッケッティ Gnocchetti, alici e peperone dolce di Altino」これはジャガイモ無しのこぶりのニョッキで緩めのソースと一緒に食べる。これには「カタルディ・マドンナ」の「マランドリーノ」をあわせる。ここで本来の趣旨とは違うのだが、すっきりした白が飲みたいということで「ヴァレンティーニ」の「トレッビアーノ・ダブルッツォ」をコース外で特別注文。いうまでもなく長熟タイプ、アブルッツォを代表するワイナリーのスーパー・トレッビアーノだ。
もう一つのパスタはやや変わった形状の手打ち「フィリッポ風タッコンチーノ Tacconcino a la Filippo」これは四角い形状のマルタリアーティ風だが、ブロデット風のソースが実によくあっていた。ブロデットとはマルケからアブルッツォにかけての沿岸部でよく食べられる魚介のスープ。作り方は町や店によっても違うけれど、これはシャコとスカンピの出汁にトマトソースと唐辛子少々。パスタでとろみをつけてスープというよりもソース風に仕上げてあり「アンゴリーノ・ダ・フィリッポ1891」のスペシャリティでもある。ワインは「ボスコ・ネストーレ」だ。
メインは「トラボッキ海岸のブリ柑橘風 Ricciola agli agrumi della Costa dei Trabocchi」Tラボッキとはアブルッツォ中南部の海岸線に見られる独特の形状の漁師小屋で、現在は水上レストランに改装してあるトラボッキもある。ブリ、と訳されていても顔形は似て異なる魚なのだがこれをグリルしてオレンジとレモンのソース、チコリアの付け合わせ。ワインは「テヌータ・ディ・ピエトラニコ」の「ローザルブラ」。最後にデザート、柑橘のセミフレッドにも徹頭徹尾ロゼワインで通し「カッシーナ・デル・コッレ」のビオ・チェラスオーロ・ダブルッツォでしめた。
魚介にも肉でもいけるイタリアのロゼワインは日本始めアメリカの消費もここ数年伸びているが、モンテプルチアーノをマセラシオンして作るチェラスオーロ・ダブルッツォは重厚で男性的なものからチャーミングでイチゴのニュアンスのものまで作り手によって様々。今年の夏は「アンゴリーノ・ダ・フィリッポ1891」のようなアブルッツォ風魚介料理にチェラスオーロ・ダブルッツォを試してみてはいかがだろうか。
L’Angolino da Filippo
Via Sangritana, 1 San Vito Chietino(CH)
Tel+39-087261632
記事:池田匡克