Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

現代イタリア映画情報1「君の名前で僕を読んで」監督:ルカ・グァダニーノ

2018年度アカデミー脚色賞を受賞した「君の名前で僕を呼んで」(英:Call me by your name)は、監督を務めたルカ・グァダニーノの名を世界中に広く知らしめた映画。その魅力は優れた構成と俳優たちの演技に加え、80年代のイタリアを詳しくリアルに描写している点だろう。

では「君の名前で僕を呼んで」はその時代について何を語っているのか、そしてなぜそれが海外とイタリアのオーディエンスに刺さる作品になったのか。原作の小説の著者であるイタリア系アメリカ人、アンドレ・アシマンのビジョンと比べ、グァダニーノ監督はどのような解釈を行ったのか?

原作者アシマンはリグーリア州リビエラ海岸に程近いボルディゲーラという小さな町を舞台に小説を書いていた。しかしグァダニーノはボルディゲーラではなく、自分の思春期を過ごしたクレマ市とその近くクレモナ県近辺をロケ地として選び、ガルダ湖とヴァルボンディオーネのセリオの滝に至るまでカメラを回した。おそらく、日本人にとってその地名にはほとんど意味がないだろう。しかし(控えめに言っても)観光地としてはほとんど知られていないその地方は意に反して観るものに大きな印象を与え、イタリア映画作品の中でも滅多に登場しない北イタリアの美しい景色にスポットライトを当てることになったのだ。

chiamami col tuo nome

それに加えグァダニーノが「君の名前で僕を呼んで」を通じて、北イタリアが持たれている冷たい工業的な印象を打破することに貢献したとも言える。クレマののどかな田園地帯、陽気な農民の生活、そして古き良き時代の描写(ヴェンテニオで主人公を歓迎する老人の登場は正にその象徴)のシーンを通じ、以前より抱かれていたステレオタイプであるイタリア南北の差、つまり北イタリアは伝統を忘れて近代化に走り、一方南イタリアは勤勉さに欠けるといった偏見を真っ向から否定したのだ。

chiamami col tuo nome

さらに、高等教育を受けていたと思われるエリオとオリバー(俳優:アーミー・ハマー)が休暇を過ごす村の田舎っぽさを主張することによって、グァダニーノはその若いカップルと、彼ら以外のイタリア社会との比較を行う。それと同時に、感情を抑制できない若者の心のうちの混乱を表現する。政治議論が加熱する様も描いており(当時イタリアはクラクシ政権に突入:左派。イタリアの政治に永続的な影響を与えた政治家)ようやく手に入れた高度経済成長、似通った社会階層同士でも思想的に反発し合い、更に冷戦が影を落とした時代に妥協点を見いだせなかったことをこの映画を見る人たちに伝えているのだ。

グァダニーノはその小説をアップデートすることにより単純な作品の映画にとどまらず、自身の映画でその時代の重大な動き、またそれについての個人的なビジョンを表現し、歴史的、社会的な描写を行うことで、ロマンスやストーリーなどの重要なプロットが出来上がったのだ。

当時のイタリアに興味があり、当時についてもっと知りたい人にとっては、間違いなく「君の名前で僕を呼んで」は見逃せない作品だろう。