1999年初夏。僕は、カラブリア男子6名との共同生活を離れ、ポポロ広場近くのアパートに越した。留学しに来たのに、毎晩飲み会だと勉学に励めないので。新たに入居した部屋は、バルセロナとNY出身の女子大生二人と共同生活。一人はベジタリアンだった気がする。それまでの男子6名とのカオスな共同生活とは180度違う、穏やかで、なんとなく良い匂いがする暮らしが始まった。勉学に励める香りもした。しかしこんな好条件を、元ルームメートたちが黙ってみているはずはない。フェスタをやろうと、なにかにつけ、ウチにゾロゾロとやってきた。女子大生たちも大体付き合ってくれた。そんな、とある夜。
いつもの通り、延々と続くピザや赤ワインで酔っ払った僕は、自室のベッドでいつの間にか寝落ちしていた。朝方、ふっと気づくと、ん?!隣に誰かが寝ている。恐る恐るみると、2メートル近くありそうな巨人だ。僕は飛び起き、咄嗟に自分のお尻に手をやってみた。大丈夫、違和感はない。ちゃんと服も着ている。が、しかし、誰だこいつは!?巨体に似合わず、静かに行儀良く真上を向いたまま僕のベッドで寝ている。元ルームメートたちはもういない。二人の女子たちは自室でおとなしく眠っている模様。うーん。僕は横たわる巨体を眺めながら、昨夜のことを一生懸命思い出そうとしたが、この男については何も思い出せなかった。
おはよう、と男はだいぶ英語訛りのイタリア語で呟き起きてきた。おはよう、と僕も返す。で、君は誰?。男はイタリア語がほとんどできず、僕の片言の英語でしばらく会話した。
男の名前はポール。シドニーからの留学生で、僕が抜けたことで空きが出たカラブリア男子6名の部屋に入居したとのこと。昨夜遅くにフェスタに合流したらしく、その頃には僕はすでに寝落ちしていたので、誰だかわからなかった。ポールも酒に弱いらしく寝てしまって、元ルームメイトたちはポールを置いて帰った模様。「びっくりしたよ」と言うと、「ごめんごめん。でも大丈夫。僕の彼女はカンタス航空のCAだから」とポールは言った。どこがどう大丈夫なのかさっぱりわからなかった。どこからどこまでが真実なのかもわからなかった。
教訓:留学には住環境が大切。(まぁでも、楽しければ良いと思う)。
留学の思い出はこんなのばっかり。そろそろ怒られそうなので、次回からは家族で移住したミラノでの暮らしを中心に書いてみます。2015年ごろへタイムスリップ!
1999年、留学時代。フェスタ(宅飲み)は大体こんな感じになる。全員大学生だが、そう見えない人も混ざってるな。ちなみにポールはこの写真には写ってない
志伯健太郎
クリエイティブディレクター。慶應SFC、イタリア・ローマ大学建築学科で建築デザインを学び、2000年電通入社後、クリエイティブ局配属。数々のCM を手がけたのち、2011年クリエイティブブティックGLIDER を設立。国内外で培ったクリエイティブ手法と多様なアプローチで、企業や社会の多様な課題に取り組む。 glider.co.jp