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最新グルメ情報62メディチゆかりの館に誕生した、フィレンツェ美食の殿堂

メディチゆかりの館に誕生した、フィレンツェ美食の殿堂

イタリアを代表する観光都市の一つ、フィレンツェ。世界中から訪れる旅行者のために飲食店はそれこそ無数にある。しかし、リュクスかつガストロノミーという観点で語れる店は意外に少ない。ミシュランの三つ星評価を持つ「エノテカ・ピンキオーリ」や二つ星、一つ星の店もあるが、ごく一部の限られた客層が訪れるだけで、クローズドな世界である。そんな街に“日常的に優雅で洗練された食を楽しめる場”が新しく誕生した。
ドゥオモとシニョリーア広場の間、つまり旧市街のど真ん中を東西に貫くコルソ通り、その中程にかつて銀行だったパラッツォがある。ダンテの恋人として知られるベアトリーチェの父が所有し、その後はトスカーナ大公コジモ1世の邸宅となった館で、長らく閉鎖されていたが、2022年4月にビストロ・ラウンジバー&ダイニング「シック・ノンナ」として生まれ変わった。

コルソ通りに面して開け放たれた重厚な木の扉を目印に数段の石段を上がると足元に「ポルティナーリ・サルヴィアーティ」の文字が見える。この館の名前である。さらに奥へ進むと天井から自然光が降り注ぐ空間が広がる。コジモ1世コルテ(中庭)と呼ばれるそこがビストロ・ラウンジバー「サロット・ポルティナーリ」だ。大理石モザイクの床、壁のフレスコはオリジナルで、タペストリーや家具、照明は館の雰囲気に即したクラシックなテイストで統一されている。中央にはコジモ1世の大理石像が佇み、花や緑がそこかしこにあしらわれている。
実はこうした貴族の館の中庭を利用したラウンジは、フォーシーズンズホテル・フィレンツェにもあり、中央に大理石像(ちなみにバッカス像)、ふんだんに飾られた植物という点もそっくりである。そしてシック・ノンナの総料理長を務めるのが、フォーシーズンズホテル・フィレンツェの元総料理長となると、この新しいスポットのコンセプトはフィレンツェの人にはある意味とてもわかりやすい。つまり、エレガントな時間と洗練の料理をゆっくりと楽しめる場所、ということである。

総料理長ヴィート・モッリーカ氏はバジリカータ州出身で、子供の頃から料理上手の母に習い、長じて料理人となるとフォーシーズンズホテルに入った。ミラノ、プラハを経て2007年にフィレンツェの料理長に就任。2011年にミシュランの一つ星を得て、以来10年間フィレンツェ・ガストロノミーを牽引する1人として活躍。2021年に独立し、世界各地でラグジュアリーレストランを展開するマイン&ユアーズ社のガストロノミーを監修するディレクターとなった。ドバイでの新規プロジェクトを進めた後、フィレンツェに凱旋帰国、シック・ノンナの立ち上げを先導し、ビストロ・ラウンジバーとダイニングのディレクションを担う。

モッリーカ氏の料理は、トスカーナ伝統をベースとし、全体的に繊細だが味わいの芯にはイタリアの素材の力強さがある。イタリア人にとっては懐かしく、同時に新しさも感じさせる世界だ。夜のみの営業となるダイニングではモッリーカ氏がシェフとして腕を振るい、オールデイダイニングであるビストロ・ラウンジバーでは、前菜、プリモ、セコンドのほか、クラブサンドイッチやハンバーガーなどカジュアルなメニューも用意している。さらにカフェやアペリティーヴォを楽しむこともでき、フィレンツェの中心で思い立った時に優雅な気分に浸れる場所としては今までにないスポットである。

Chic Nonna e Salotto Portinari Bar&Bistrot
https://www.chicnonna.com/chic-nonna-restaurant-florence/

 

記事:池田愛美