ローマ・テスタッチョ地区に登場した、明るく楽しい自然ワインレストラン
20世紀の終わり頃、イタリアでオーガニックのワイン造りを試みる生産者はほとんどいなかった。今までやってきたことがほとんどオーガニック同然だからあえてオーガニック農法を導入する必要はないとか、オーガニック認証のマークを取得する資金がもったいないとか、あるいはオーガニックに転換すると今までの味わいを失ってしまうと考える生産者も少なくなかった。ワイン好きの間でもオーガニックにこだわる人も少なかったので、特に必要性を感じなかったのだ。しかし、21世紀に入り、次第にオーガニックへの関心が消費者を中心に広がると、ワインの世界もオーガニックに転換する生産者が増え、今や、クオリティワインを手がける大前提の域にまで達している。そして、いつの間にか、オーガニックよりもさらに進んだ自然ワインを造り手もワイン愛好家も追求する傾向が強くなっている。
ローマの下町テスタッチョに登場した自然ワインだけを集めたエノテカ・レストランも、そんな時代の気分を反映した新スポットだ。仕掛けたのは、サン・ロレンツォ地区のコンテンポラリー・オステリア「パスティフィーチョ・サン・ロレンツォ」。古いパスタ工場跡を利用した、どことなくレトロな雰囲気漂う店内で、従来のプリモやセコンドといった枠にとらわれず自由に食べることを楽しむというのがコンセプトのレストランで、ランチから夜中までノンストップという使い勝手の良さも手伝って幅広い世代から支持を得ている。それがこのほど新たに作ったのが、ビギナーでも自然ワインに親しめる「ヴィニフィーチョ」だ。
自然ワインという言葉は聞いたことがあっても、イタリアの一般人にはまだあまり馴染みがないというのが現実だ。スーパーや食料品店でオーガニックワインは売っているが自然ワインはまず見かけないし、エノテカであれこれ吟味するという習慣を持っている人以外は自然ワインそのものに接する機会がないのだ。そんな“一般人”に自然ワインの魅力に触れてもらおうというのがヴィニフィーチョの目指すところ。友人同士や家族連れでも楽しめるようなカジュアルで明るい雰囲気の店内で、自然ワインを料理と一緒に味わえる。サン・ロレンツォやテスタッチョという下町を選んでいるところも、スノッブにレアワインやガストロノミーを嗜むのではなく、気軽に美味しいものを分け合って欲しいという気持ちが表れている。
料理を担当するのは、ハインツ・ベックの三つ星「ラ・ペルゴラ」出身で、ファインダイニングと伝統料理の両面から料理にアプローチするアルベルト・メレウ。農家とダイレクトにつながり、旬の素材の持ち味を主役にした郷土料理を中心にアレンジを加えて提供している。メニューには、「タパス」「ボッテガ」「クチーナ」のカテゴリを設け、スペインのようにカウンターにピンチョスを並べるタパス、小規模な作り手によるハム・サラミ・チーズが15種類ほど揃うボッテガ、フリットやサンドイッチ、肉や魚料理を小ぶりなポーションで12種類ほどのクチーナ、といった具合で、その時の気分で自由に組み合わせられるようになっている。肝心の自然ワインはイタリアとフランスを中心に世界各地から500種以上を用意。さらに今秋までに1000種にまで充実させるという。
テスタッチョの一隅を占めるモンテ・デイ・コッチからは古代ローマ時代にワインを運搬するための容器だったテラコッタのアンフォラの残骸が大量に発見されたり、19世紀には葡萄が栽培されていたこともあるなど、ワインとは浅からぬ縁がある土地でもある。そして屋内市場のリニューアルが行われて以降、近年は新しい食のスポットとして店がどんどん増え、古くからの食堂やバールと新興のユニークなコンセプトの店が混在する地区となっている。観光スポットから少しだけ外れて、ローマの最新フード事情を覗いてみるのもいいだろう。
Vinificio
Piazza dell’Emporio, 1 Roma
18:00〜02:00 日曜12:00〜 無休
https://vinificionaturale.it
記事:池田愛美