Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

人生は祭りだ Vol03オルヴィエート:CM撮影の手伝いをしたが、キスシーンが多すぎて日本で放送できなくなった話

1998年の初秋ごろの話。CM撮影現場の通訳をアルバイトで頼まれ、オルヴィエートに行った。オルヴィエートは、イタリアのちょうど中心あたりウンブリア州にある美しい小さな街。州都ペルージャからもほど近い。訪れたのはちょうど、中田英寿さんがペルージャに移籍し、王者ユベントス相手にいきなり2得点の大活躍をした直後。街を歩いていると、日本人というだけでナカータナカータと言われ。同じ日本人としてとても誇らしかったことを覚えてます。

自分は確かチョコレートか何かのCM撮影だったと思う。(まさかこの時将来CMの仕事に就くとは夢にも思わなかった、因果とは不思議なものです)出演者たちは、本物のモデルや役者ではなく、主にオルヴィエート在住の素人カップル。カップルたちに思いっきりイチャイチャしながらチョコレートを食べてもらう。その甘〜い様子を5−6組撮っていく企画だった。

日本からは来たのは、クライアントの偉いおじさんたちと、制作スタッフ5名ほど。偉いおじさんたちは、イタリア人たちが公共空間でチュッチュ・チュッチュしながらチョコレートを食べる様子を、「ええ国やなぁ〜」「生まれ変わったらイタリア人になりたいなぁ〜」などと呑気なことを言って眺めてる。ジェラートなんか舐めながら。日本から来た現場監督も、だんだんエンジンがかかって来て「もっと情熱的なキスをしてください!」みたいなコッテリした演出を要求し始める始末。美しく咲き乱れる晩夏の花々と、心地よい秋風。強い太陽の日差しと、ランチにたっぷり胃に流し込んだ美味しい赤ワインが、日本人クルーをそうさせちゃったのか。変なアドレナリンが出ちゃったのか。

楽しかったのはここまでで。後から聞いた話だけど、このCM、日本に戻って編集したらキスシーンが濃厚すぎて(そういう要求をしたので、そういう仕上がりになるのは当然なんだが)、放送した瞬間、すぐにオンエア中止に追い込まれたとのこと。僕は観れなかったけど、察するに、相当異質なCMに仕上がってしまったんだろうなぁ。

 

教訓:イタリアで撮影するときは、過剰な演出をしてはいけない

 

その後、約20年ぶりに家族4人でウンブリア州とオルヴィエート訪れた。僕の息子が、チェントロの広場を無邪気に駆け回っている。息子よ。この場所は、20年前、パパが覚えたてのイタリア語で「もっと激しくキスしてください!」という謎のお願いして必死で撮影したにもかかわらず、”不適切な表現”という理由でオンエア中止に追い込まれたCMの、撮影現場なんだぞ。

20年前、父がキスシーンを撮りまくった広場を、無邪気に駆け回る息子


志伯健太郎
クリエイティブディレクター。慶應SFC、イタリア・ローマ大学建築学科で建築デザインを学び、2000年電通入社後、クリエイティブ局配属。数々のCM を手がけたのち、2011年クリエイティブブティックGLIDER を設立。国内外で培ったクリエイティブ手法と多様なアプローチで、企業や社会の多様な課題に取り組む。 glider.co.jp