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最新グルメ情報56パン、ピッツァ、発酵菓子&Co. 新しいベーカリーレストランの形

パン、ピッツァ、発酵菓子&Co. 新しいベーカリーレストランの形

粉と水というシンプルな素材が、発酵という作用を経ることでパン、ピッツァ、発酵菓子が生まれる。はるか昔からイタリアでは粉と水だけで発酵種(リエヴィト)を起こし、その種をかけ継ぎしてパンを作ってきた。温度や湿度、時間に影響を受けやすい発酵種は管理が難しい。そんな面倒から解放してくれたのが、純粋培養して安定させたビール酵母(リエヴィト・ディ・ビーラ)、日本でいう生イーストだ。この酵母のおかげでパンやピッツァ作りは格段に簡単で短時間にこなせるようになった。しかし、ビール酵母で作ったパンやピッツァは焼きあがってしばらくするとかたくなる。ナポリ・ピッツァのように焼き上げてすぐに食べるものならいいが、発酵を早めるためにビール酵母の量を増やすと、今度は消化に影響する。食べた後に胃にもたれるのだ。

20世紀の終わり頃より、発酵そのものを見直そうという動きがピッツァの世界に生まれた。ビール酵母を使わず、自家製のリエヴィト・マードレを使ってピッツァ生地を仕込む。ゆっくりと時間をかけて発酵させ、焼き上げる温度はやや低め、焼き時間を長めにする。焼きあがったピッツァは表面はカリッと、中は気泡をたっぷり含んで柔らかく弾力のある、パンに近いテクスチャーとなる。そして何よりも小麦由来の香りが際立ち、ナポリ・ピッツァとは全く別ものとして注目を浴びるようになった。ピッツァ職人の間で発酵を研究し、さまざまな独自のスタイルを打ち出す動きが広まり、やがてそれは料理人を巻き込んで、大きなうねりとなっている。

ローマの「Cresci」も発酵に魅せられた料理人がラボラトリー兼ビストロとして営む店だ。料理人として25年のキャリアを持つダニーロ・フリソーネは、40歳で“フォルノ”(パン屋)・クレッシをバチカン近くにオープン。パン作りはほぼ独学で、アメリカ(サン・フランシスコやシカゴ)、そしてフランスのパン作りを研究。イタリアの伝統を踏まえつつも、現代的な感覚を取り入れ、パン好き、発酵もの好きのニーズに答えていくという。ガラス張りのラボラトリーではパンやピッツァを仕込む様子が見え、カウンターに設けられたショウケースには切り売りのピッツァと焼き菓子、ビスコッティなどが並ぶ。パンはシンプルなパーネ・ルスティコ、古代小麦を使ったパン、雑穀パンなどの食事パンのほか、フォカッチャ・プリエーゼ、カサティエッロ・ナポレターノなどご当地パンもさまざまに作っている。

こうしたパンを購入、イートインできるだけでなく、家庭料理のビストロ、さらにはミクソロジー・バーとしても利用できるのがクレッシの特徴だ。毎日朝7時から深夜まで、1日のどんな場面でも楽しめるベーカリー・ビストロ・バー。ひとことで定義することが難しい、でも、使い勝手良く、しかもその中心に自家製発酵種を使ったパンがあるというスタイルは、これからも広がっていくだろう。

*Foto by Alessandro Barattelli

Forno Cresci
Via Alcide de Gasperi 11/17
06-51842694
https://www.cresciroma.it

 

 

記事:池田愛美