Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

最新グルメ情報55大理石に根ざすブドウから作る唯一無二のワイン「ノヴェンタ」

大理石に根ざすブドウから作る唯一無二のワイン「ノヴェンタ」

ミラノからA4高速道路をヴェネツィア方面に向かい、ブレシアを過ぎた頃左手に雪を抱いたような白い山並みが見えるのをご存知だろうか。実はこれは現役の大理石採石場Cavo di Marmoであり、ヴェネツィア共和国時代から優良な大理石を産出することで知られている。その規模はミケランジェロが一連の彫刻に使用したことで名高いトスカーナ州カッラーラに次いでイタリア第二であり、ローマのヴェネツィア広場にある戦没者記念碑(Altare della Patria)にはこのボッティチーノ産の大理石が使用されていることでも名高い。

ボッティチーノは赤ワインの生産地として昔から知られており、ボッティチーノDOCが制定されたのは1968年。ブレシア市内の古いオステリアではワインといえばボッティチーノであり、それはフィレンツェならばキャンティ・クラッシコに相当するような立ち位置なのだ。最盛期には1000haもの作付面積を誇ったが、ブレシアの街に近代化が進み、商工業が発展するとともに離農も同時に進み現在はわずかに35ha足らず。しかしこの小さなDOCボッティチーノに注目ワイナリーがある。家族経営の「ノヴェンタNoventa」だ。

「ノヴェンタ」の最大の特徴はそのテロワールにある。大理石採石場のすぐ近くにあることから土壌は石灰質と粘土質が入り混じり、中には地下50mまで大理石の厚い層が続く畑もある。周囲は丘陵に囲まれており馬蹄形の地形アンフィテアトロを形成していることから冬の寒さからも守られ、それぞれ個性が異なる3つの有機栽培畑「ゴッビオ Gobbio」「ピア・デ・ラ・テーザPià de la Tesa」「コッレ・デッリ・ウリーヴィ Colle degli Ulivi」から作られるワインは豊富なミネラルとほのかな塩味、滑らかなタンニンが最大の特徴。エノロゴのルカ・マローニがこの地を訪れたときそのポテンシャルに驚き、すぐさま醸造家としての仕事を引き受けたという。ボッティチーノDOCの代表的なブレンドであるサンジョヴェーゼ、バルベラ、マルツェミーノ、スキアーヴァ・ジェンティーレで作る赤ワインとスキアーヴァ・ジェンティーレから作るロゼワインがメイン。中でも「ゴッビオ2018」は2022年度ヴィーニ・ディタリア Vini d’Italiaで最高峰の3つグラス、トレビッキエーリを獲得した。

ボッティチーノの大理石は1億7000から9000万年前に作られたとされ、アンモナイトなどの化石も日常的に発見されているほどだ。「ゴッビオ」は標高380m、地下には50mに渡って大理石の塊が層をなし、ぶどうは大理石を突き抜けて根を張る。見た目は濃いルビー色、香りはプラム、ダークチェリージャム、ラズベリー、セージやシナモンのようなスパイスのニュアンス。味わいは滑らかなタンニンと心地よい酸味、そして塩味を中心とした凝縮したミネラル感。「ノヴェンタ」の最良畑から作られるフラッグシップワインだ。

一方「ピア・デ・ラ・テーザ」は「ゴッビオ」からやや大理石採石場のすぐ近くにあり、大理石の小石と粘土質が混ざる「フィオリート」と呼ばれる土壌が特徴的。古くからブドウ栽培が行われていた畑で、樹齢70年のバルベラやサンジョヴェーゼ、昔風のペルゴラ・ブレッシャーナの作りもあちこちに見られる。濃いルビー色、完熟した果物、バニラ、タバコ、リコリス、厚みがありエレガント。

「コッレ・デッリ・ウリーヴィ」はその中間的な特徴を持つ畑で、大理石層が形成されたのは1億5000万年前。「ゴッビオ」と「ピア・デ・ラ・テーザ」の中間的特徴を持ち、大理石と粘土質が混じり合った土壌から「ピンク色の畑」とも呼ばれている。ワインの特徴としては色は濃いルビー色でラズベリー、フランボワーズ、ブラックベリーの香り、完熟した花、冷たい石のような香り。味わいはエレガントかつ洗練されたタンニンで酸も綺麗、塩やミネラルを感じる長い余韻。

もうひとつスキアーヴァ・ジェンティーレ100%で作るロゼ「ラウラ」がある。これはイタリアのロゼに多い桜色ではなく、いわゆるプロヴァンス風「玉ねぎの皮」といわれるやや茶色がかったピンク色。味わいはドライでやや苦みがあり、フランボワーズを思わせる味わいは余韻も長く食中酒として万能なタイプ。

「ノヴェンタ」は現在父親ピエランジェロのあとを注いだアレッサンドラと夫のクリスティアン、従姉妹のキアラの3人が中心になって運営している。キアラはいう「ワイン作りは1970年代に父が始めた仕事。子供の頃から父の背中を見て育ったし、私がその仕事を受け継ぐのは当然のこと。昔のボッティチーノのワインは今と違って評価も高くなく、ワイン自体の品質も高くはなかったけれど父は一生懸命にブドウを作り、ワイン作りに命をかけてきた。いまわたしたちはかつてのボッティチーノの栄光を取り戻そうと、少しづつですけど高品質のワイン作りに挑んでいるのです。」ワイナリーに飾られているのは、近年発見された1573年の記録台帳の写真だがそこにはこう書かれている。「フランチェスコ・ノヴィンタはゴビオの土地66テーブル息子アントニオ・ノヴィンタに相続する」今から450年前にすでにノヴェンタ家はゴッビオの土地でブドウを栽培していたのだ。その後幾星霜の年月を経て、再びゴッビオの畑がノヴェンタ家の本も戻ってきたことは運命としか言えないだろう。かつて1000haもの作付面積を誇ったボッティチーノの復権を目指し、アレッサンドラはじめノヴェンタ家の誇り高き挑戦はこれからも続く。


ノヴェンタ Noventa
https://noventabotticino.it/
Via Merano,26 Botticino Mattina(BS)
Tel030-2691500

 

記事:池田匡克