女性チームによる新しいカフェがローマ・テルミニ駅に登場
イタリア最大の鉄道駅、ローマ・テルミニ。ムッソリーニが造らせた壮麗な建築のミラノ中央駅と並び、古代ローマの遺跡がすぐ傍に迫っているテルミニは紛れもなくイタリアの顔と言える。ここ数年、テルミニやミラノ中央駅などイタリアの主だった鉄道駅は内部のリニューアルが進んでおり、空間をより明るく作り変え、メイド・イン・イタリーにこだわったショップを積極的に誘致している。ミラノ中央駅は昨年9月にフードホール「メルカート・チェントラーレ」がオープンし、駅を利用する人はもちろんのこと、仕事帰りのアペリティーヴォや友人との食事を楽しむためにわざわざ足を運ぶ人が増えた。ナポリ中央駅もいつ終わるともしれないと言われた駅前広場の工事が終了し、そして駅内も一新、老舗パスティッチェリアの「スカトゥルキオ」が出店するなどフードサービスが充実した。そして今年1月26日、テルミニ駅に新しく登場したのが、カフェ「ミニョン・アッレ・ムーラMignon alle Mura」だ。
「ミニョン」は女性チームによる企業が経営し、2016年にミラノ中央駅に1号店を、次いでトリノ・ポルタ・ヌオヴァ駅に2号店を出した。ナポリに製造拠点を置き、伝統菓子であるスフォリアテッラのミニサイズ=ミニョンを主力商品とし、そのほかにもコーダ・ディ・アラゴスタ(スフォリアテッラと同じパイ生地を使い、細長い伊勢海老の尻尾形にしてクリームを詰めたもの)、ババ(ブリオッシュに似た発酵菓子をシロップに漬けたもの)などのナポリ菓子、カンノーリ、ビニェ(シュークリーム)といったお馴染みの菓子も揃える。
テルミニ駅にオープンしたミニョン・アッレ・ムーラは、チンクエチェント広場から駅舎内に入ってすぐのホール左手に位置する。天井高く緩やかな傾斜を描く全面ガラス張りの空間はその見た目から“ディノサウロ”(恐竜)とも呼ばれ、紀元前4世紀に造られた市街地を囲む石壁がカフェの借景となっている。旅行者がテルミニ駅に降り立って最初に目にする遺跡だ。この石壁(ムーラ)が見える特別なポジションにあるカフェというわけで、“ムーラのそばのミニョン”と名付け、カフェの構造も石壁の眺めを最大限楽しめるように工夫している。
仕切りを極力無くし、テーブルや椅子、照明などは抑えた色調で統一。開放的かつ落ち着いた雰囲気で、時間がなくて忙しない時でも寛いだ気分にさせてくれる。視覚的な美しさだけでなくサステナビリティにも配慮し、例えば使用している木材そのほかの資材も全てリサイクルが可能であり、解体・再利用できる。また、床材はバイオアクティブ・セラミックを使っており、バクテリアの繁殖を抑え、自浄作用も期待できるという。
メニューは朝から晩まで時間帯に応じてガラスケースに並ぶ商品が変化する。朝食はクロワッサン(全粒粉製もある)や伝統の焼き菓子を中心に、ビーガン向けの100%植物由来のものも揃う。ランチタイム以降は、トラメッツィーノやパニーノのほか、ローマならではのピンサ(さっくりとした食感の薄いピッツァ)、サラダも充実。コーヒーにもこだわり、香りや味わいの豊かさといったクオリティはもちろんのこと、自然と社会両面においてもエコロジカルであることを重視して、女性たちが中心となって働く有機栽培農園の原料を用いた「モジMogi」社の製品を使用している。
移動の合間に適当に空腹を満たしたり、ひたすら時間を潰すためだけの駅カフェ、という時代は完全に過去のものとなり、旅の合間をもっと有効に楽しく過ごすため、あるいは充実したフリータイムのために訪れる。鉄道駅フード・エクスペリエンスは新しいフェーズに入ったと言えるだろう。
Mignon alle Mura
Atrio Roma Termini
https://mignon2go.com/
記事:池田愛美