Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

美食とワインの鉄道旅行 トレーノ・ストリコ Treno Storico復活

「トレーノ・ストリコ」とは非電化の古い路線を昔の車両に乗って旅するユニークな企画で、従来はイタリア各地で不定期に開催されていた。それが今年イタリア鉄道FS、イタリア観光省、そしてガンベロ・ロッソ Gambero Rossoが連携し再編成して復活。コロナ後のツーリズム完全復活に向けて動き出したのだ。
今回ガンベロ・ロッソの招待で乗車したのはシエナ Siena発、ブォンコンヴェント Buonconvento、アシャーノ Ascianoを経て再びシエナに戻るトスカーナ路線。2021年10月23日朝9時、1920年代の古い車両を使った「トレーノ・ストリコ」は定刻通りにシエナ駅を出発した。以前にもこの路線を走る「トレーノ・ストリコ」に乗ったことがあるがその時は蒸気機関車が牽引し、アーティチョーク祭りや白トリュフ祭りなど地元のサグラに参加しつつ旬の味を楽しむという企画だった。今回は蒸気機関車ではなくディーゼル車だったが、1950年代の古い制服に身を包んで登場したのはシエナ大学でイタリアにおける輸送、交通史の専門家ステファノ・マッジ Stefano Maggi教授。実は以前にもお会いしたことがあるが、今回もボランティアとして車掌役で乗車。乗客にこの路線の特徴や、車両の説明、イタリアにおける輸送史など実に興味深いテーマを話してくれたのだ。

木製のベンチ、真鍮の手すりなど手作り感満載の古い車両に座り、霧が漂う中をトレーノ・ストリコはゆっくりと走り出す。30分後、最初に到着したのはシエナ南西30kmにあるシエナブォンコンヴェント Buonconvento。モンタルチーノ Montalcinoに車で行ったことがある人ならおそらく見たことがあると思うが、地元の人もいう通り普段は「通過される街」なのだが、今回は専属ガイドの案内でゆっくりと旧市街を歩き、マッジ教授いうところの「スローな電車でスローな旅」を楽しむ。ここからは観光バスに乗り込み、次の目的地であるモンテ・オリヴェート大修道院へと向かう。

モンテ・オリヴェート大修道院はシエナの承認ベルナルド・トロメイ Bernardo Tolomei(1272 – 1348)によって14世紀に創建されたベネディクト派の修道院。今も30人の修道士が暮らし、巡礼者や旅人を受け入れてくれる実にオープンな修道院。それは巡礼者には宿と食を提供せよという、開祖聖ベネディクトの教えに基づくという。創建以来700年に渡り農作業に従事しており、現在は野菜や小麦、オリーブオイルのほかにそれぞれ5種類の赤ワインと白ワイン、ロゼワイン、ヴィンサント、リキュール、グラッパなどを修道院内で作っており、とても現代的でもある。

修道院を後にし、再びバスに乗ってアッシャーノにある次の目的地、アグリツーリズモ・カサノヴァ Agriturismo Casanovaに向かう。ここはトスカーナが誇るブランド牛キアニーナを飼育し、ビステッカはじめキアニーナを使った料理を食べさせてくれるレストランだ。暖炉に火が灯る食堂で一昨日搾油したというできたてのオリオ・ヌオヴォを味わいつつクロスティーニをつまみ、自家製の赤ワインを飲む。アグリツーリズモ・カサノヴァは古代小麦も栽培しており、セナトーレ・カッペッリ Senatore Cappelliを使ったパスタが登場した。これはアッシャーノにある5つの古代小麦生産者が集まって作ったパスタブランド「パスタッシャーノ Pastasciano」の特大フジッリ=フジッローネで、古代小麦特有のほのかな甘みとシナモンを思わせる独特の香りが実に素晴らしく、じっくり煮込んだラグーの味を何倍にも引き立ててくれた。今回の料理解説はフード&ベバレッジ・ジャーナリスト、フェデリコ・ベッランカ Federico Bellancaで最後に登場したのがキアニーナのタリアータで、味付けは塩とローズマリーのみ、これにオーリオ・ヌオーヴォをたっぷりとかけて食べる。赤身と脂がはっきりと分かれているのがキアニーナの特徴で、熟成させた赤身肉の旨味を味わえる。

最後は再びアッシャーノへとバスで移動し、再び「トレーノ・ストリコ」に乗り込んでシエナへと向かう。車窓から見えるのは独特のクレテ・セネージ。粘土質の丘陵地帯が広がり、点在する家屋と糸杉並木はもっともトスカーナらしい風景の一つだ。こうした美しい風景を眺めつつ、地元の味を堪能する。それはコロナ禍が始まって以来1年半以上も忘れられていた旅の醍醐味であり、失われた喜びを取り戻すべく、「トレーノ・ストリコ」が復活したのだ。トスカーナはじめシチリア、サルデーニャ、アブルッツォなどイタリア全土7路線でこうした「フード・エクスペリエンス」が味わえる。今年の秋以降イタリア旅行を考えている人にはぜひ体験してもらいたいユニークな旅のスタイルだ。


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記事:池田匡克