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最新グルメ情報36ミラノ中央駅が食の殿堂に。メルカート・チェントラーレが誕生

ミラノ中央駅が食の殿堂に。メルカート・チェントラーレが誕生

かつて人々の“胃袋”を支えていた市場。建物の老朽化やスーパーマーケットの普及に伴ってほとんどの市場はいつの間にか忘れられかけた存在になっている。しかし20世紀初頭前後に建てられた屋内市場は、当時最先端の技術やデザインを取り入れた、建築遺産とも呼べるほどの立派な施設も多い。そんな市場の再生プロジェクトの波ががまずスペインに生まれ、地元の人々の買い物だけでなくフードコートとしての役割を付与することで食のテーマパーク化の動きが波及していった。イタリアでその動きを具体化させたのが、フィレンツェの飲食プロデューサー、ウンベルト・モンタナーロである。2014年にフィレンツェのサン・ロレンツォ中央市場の2階にトスカーナの小さな生産者を中心にした飲食店を集め、セルフサービスで料理を食べられるフードコートとして再出発させたのだ。

朝から夜中までノンストップ営業、家族や友達などグループで行ってそれぞれが好きなものを食べられる。決まった時間に限られたメニューに従っての食事しかできない通常のレストランに比べて自由度がはるかに高く、キャッシュオンデリバリーなので割り勘の煩わしさもない。程なくして地元民のみならず旅行者にとっても便利でマストなスポットになった。その成功を受けて、2016年に2号店がローマ・テルミニ駅にでき、2019年に3号店がトリノに、そして今年9月2日、ミラノ中央駅に4号店がオープンした。ミラノ中央駅はミラノ市、イタリアの14の大規模鉄道駅を管轄するグランディ・スタツィオーニ・リテイルなどが中心となった改造プロジェクト下にあり、このメルカート・チェントラーレはその一環の“最新作”である。オープニングにはミラノのベッペ・サーラ市長、フィレンツェのダリオ・ナルデッラ市長、トリノのキアラ・アッペンディーノ市長とローマ市長の代理も臨席し、街の活性化に既存の3メルカートがもたらした功績とミラノ店の注目度の高さが伺える。

メルカート・チェントラーレ・ミラノはミラノ中央駅の西側、IVノヴェンブレ広場に面した1階と2階の4500㎡を占める。そこは20年以上使われずに放置されていたかつてのオフィススペースだという。朝7時から真夜中まで年中無休で営業しており、買い物、食事はもちろんのこと、友人と集まったり、読書や仕事をしたり、一日のさまざまな場面に利用できる。また料理教室やワークショップといった体験型プログラムのほかイベントも予定されている。夜には照明が変わり、アペリティーヴォやディナーをゆっくりと楽しめる雰囲気になるという。さらに、メルカート・チェントラーレとしては初の試みとして、オリジナルのラジオ局「ラジオ・メルカート・チェントラーレ」もスタート。ニューノーマルの遵守が欠かせない今、市場につきものである売り手の威勢のいい掛け声、お客さんとのやりとりといったヴィヴィッドな雰囲気を期待するのは難しい。だがしかしそれを逆手にとり、“カルチュラルなボッテガ”としてラジオ局を設けることにしたのだ。従来の電波によるラジオではなくネットを利用しており、現地だけでなくPCやアプリでのストリーミングも可能。ウェブラジオ・アーティストであるアレッシオ・ベルタッロットがディレクターを務め、音楽の合間に街のざわめきや人々の会話を挟み込んだ、ある意味ミラノらしい洗練されたBGMを提供している

メルカートには29軒のボッテガ(製造直売及びレストラン)が出店している。ミラノならではの特徴は、鮮魚に力を入れていること。ヨーロッパ主要都市で1000㎡を超える規模の市場において鮮魚コーナーの充実は不可欠だという。ミラノで1929年より鮮魚店を営む「ペドルPedol」のほか、「アンドレア・コッローディAndrea Collodi」では購入した魚を向かいのレストランで調理してもらうことができる。また、生の魚介や魚介を菓子のように仕立てた料理が楽しめるフィッシュバー、近年ブームとなっているミクソロジーの最先端を提供するカクテルバー、エルバ島の人気魚介料理店「ランデ・ヴーRendez-Vous」による炭火焼魚介料理のリストランテも同じフロアに集結している。

肉の分野では、精肉とサルーミ専門店「ファウスト・サヴィーニFausto Savigni」、キアーナ牛ハンバーガーの「エンリコ・ラゴリオEnrico Lagorio」、トスカーナ地鶏のジラロスト(グリル)の「アレッサンドロ・バロンティAlessandro Baronti」、同じくトスカーナ名物トリッパ&ランプレドットの「ジャコモ・トラーパニGiacomo Trapani」、料理人でありフードプロデューサーでもあるイタリア系アメリカ人ジョー・バスティアニッチによる独自のアメリカンBBQレストランが出店。

ドルチェコーナーでは、ミラノ菓子職人界の重鎮でありパネットーネの王と讃えられるヴィンチェンツォ・サントーロ(「マルテサーナMartesana」)のパスティッチェリア、ナポリからスフォリアテッラ専門店「サーバト・セッサSabato Sessa」、トリノからジェラートとチョコレートの「リッカルド・ロンキ&エドアルド・パトローネRiccardo Ronchi e Edoardo Patrone」(「マーラ・デイ・ボスキMara dei Boschi」)がある。

そのほか自ら小麦を栽培し、ミラノのパン業界に革新を起こしたダヴィデ・ロンゴーニのパン、古代小麦粉やライ麦粉を始め、さまざまな粉類を扱う専門店、ミラノで人気急上昇の「クロスタCrosta」のピッツァ、リゾット専門店、ジェノヴァスタイルのフォカッチャ専門店、既存のメルカート・チェントラーレで人気の手作り点心、アルゼンチンスタイルのエンパナーダ、手打ちパスタ、トリュフ専門店、チーズ工房、フレッシュジュース専門店...と続く。

ドリンクコーナーで注目なのは、イタリアの老舗ビールメーカー、モレッティのバッフォ・ドーロの生。蒸留所直送のこのビールはここでしか飲めない。ワインはイタリア最大のワインEC、タンニコが担当し、おすすめワインを週替わりで提供する。

2014年から始まったメルカート・チェントラーレがこれまでに培ってきた経験と磨き上げてきたセンスと技術が注ぎ込まれたミラノ店には、さらにパンデミックがもたらした新しいシステムも導入されている。先のラジオも同じ文脈にあるが、もっとリアルな安全対策として取り入れられたのがデジタルデバイスの活用だ。「ゼロフィーラZerofila」と名付けられたオンラインオーダーを利用すれば、行列に並ぶことなくテイクアウトやイートインができる。また、イタリア全土にサービスを提供しているデリバリープラットフォームとも提携、自宅やオフィスへのデリバリーやギフト利用にも対応している。グリーンパス(ワクチンパスポート)によるイートイン制限はいつか解除されるだろうが、デジタルデバイスが可能にする便利な仕組みはますます発展し、新しい“メルカート”のあり方に不可欠となっていくに違いない。

Mercato Centrale Milano https://www.mercatocentrale.it/milano/

 

 

 

記事:池田愛美