愛すべきご当地ソウルフード ローマのピンサとフィレンツェのスティアッチャータ
ピッツァの祖先とも言われるピンサ。ピンサ・ロマーナとも呼ばれる薄く伸ばして焼いたパンで、ハムやサラミ、チーズ、野菜などをトッピングする。その発祥は古代ローマ時代に遡ると言われ、伝説ではギリシャの神エネア(アイネイアス)がローマにやってきた時に初めて食べ、それをピンサと名付けたという。それほどまでに古いピンサ、元々は肉の煮込みなどを載せる皿として使うため、とんでもなく固く焼き上げたものだったらしい。時代とともに次第に改良され、そのまま食べられるものになったが、ローマやその周辺でのみ見られるローカル食品にすぎなかった。それが近年、ローマの製パン企業によって、ピンサ・ロマーナが商標として登録され、ピンサを製造販売する店=ピンセリアも急増し、今や世界に5000軒ものピンセリアが存在するという。
ピンサとピッツァの違いは、幾つかある。まず、使用する粉は、ピッツァは軟質小麦粉が原則だが、ピンサは軟質小麦粉、大豆粉、米粉のミックス。大豆粉はカリッとした歯ごたえをもたらし、米粉は焼成中でも水分を高く保つ働きがある。ピッツァに比べて縁がカリカリ、中心がふんわりするのはこの粉ミックスのおかげである。加水率は80%と高めで、対してイースト(理想的にはリエヴィト・マードレ=自家培養発酵種)の量は極力抑え、最低24時間最大120時間もの長時間発酵をするため、消化に良い。そして、見た目も円形のピッツァとは違い、細長い楕円形に仕立てる。
フィレンツェ中心でこのピンサを専門店として売り出したのが「ビアンカ00」。ミックス粉を使い、加水率85%、48時間発酵させた生地は非常に軽く歯切れがいいのが特徴だ。市内には3軒を展開しているが、ピッティ宮殿近く、パッセラ広場にある店では、ローマのピンサだけでなく、フィレンツェで昔から「スティアッチャータ」と呼ばれるいわゆるスキャッチャータをこのほど新たにラインナップに加えた。ピンサよりも少し厚みを持たせ、食べ応えのある生地に仕立てたスティアッチャータに、具材をトッピングするのではなく、二枚にスライスした間に挟むスタイルにして、その具材のコンビネーション10種類を用意。それぞれにパッセラ広場周辺の通りの名前をつけて、“地元愛”を表現している。
「La Sprone」はプロシュート・アロスト、ゴルゴンゾーラ・ドルチェ、アーティチョークのクリーム。「La Toscanella」はズブリチョローナ(フィノッキオーナとも呼ぶフェンネル入りのサラミ)、ペコリーノチーズ、玉ねぎのクリーム。スプローネ通りとトスカネッラ通りが交差するところに同店があるので、この二つは特にお勧めなのだろう。そのほか、「La Pitti」はコッパ、ペコリーノ、トリュフ風味蜂蜜、「La Passera」はポルケッタ、スカモルツァ、きのこクリームとサラダ野菜、と言った具合。グリルしたナス、ミニトマト、ひよこ豆のフムス、ハーブ風味の豆腐ソースの「La Vegetaliana」もある。
さらに、ポンテ・ヴェッキオへのオマージュとして、「24カラット・トースト」も登場。ハムやチーズを挟んだパン・カレをトーストしたサンドイッチに24金箔をあしらった変わり種で、味というよりも見た目一番。しかし、馬鹿馬鹿しいと侮るなかれ、どんな時でも遊び心を忘れない、それがイタリアのイタリアらしさを作っているのだ。
Bianca00 https://www.biancazerozero.it
記事:池田愛美