2022-23年秋冬トレンド解説(後編)
アートをまとう、目玉はシュルレアリスム

ファッションの世界で「アート」の存在感が一段と大きくなってきました。ようやく着飾って出掛けられそうな雰囲気が出てきたことも追い風になって、2022-23年秋冬シーズンのトレンドではダイナミックなアート表現が相次いで提案されました。「デザイン大国」のイタリアならではのアートフルな装いは、着る人の気持ちまで華やがせてくれそうです。

芸術的モチーフをまとうファッション提案が続々

絵画作品に代表される芸術的モチーフをまとう装いは、知的なムードが備わるのに加え、アイキャッチーな着映えに仕上がります。アートモチーフならではの主張が着こなしにパワーをもたらしてくれるのも、この着方のいいところ。着るアイテム数が少なくても、インパクトの強い「アート服」なら、華やぎを保てます。
芸術作品にはそれぞれに描き手のアイデアや技法が生かされているので、視線を引き込む効果大。アートモチーフを生かしたウエアを着れば、ウィットや美意識を印象づけることもできそう。チェック柄や花柄といった、服でおなじみの柄・模様とは違って、アートピースは作家性が高いオンリーワンのものだから、着映えにもオリジナリティーが漂います。
現代アートはイタリア以外の国・地域でも勢いづいていますが、イタリアには古典的な美術の伝統があるのに加え、モダンアートも盛んなので、様々な作品を生かしやすい下地があります。イタリアブランドのファッションショーも美術館を舞台に開催されることがしばしばあり、以前からファッションとアートは親密な間柄。22-23年秋冬のアートルックにもそうした距離感の近さが生きているようです。

「シュルレアリスム」がおしゃれの振れ幅を広げる

アートのジャンルには印象派やポップアートなど、いろいろな表現のバリエーションがあります。22-23年秋冬の「主役」になりつつあるのは、日本では「超現実主義」と訳されることが多いシュルレアリスムです。「超現実」という字面のせいか、「とてもリアルな表現」と誤解されることもあるようですが、正しくは夢や幻想の世界を描いたアートのこと。現実を超えたファンタジーの世界を題材にすることが多いアートです。
シュルレアリスムが題材に選ばれた背景には、現実の世の中から距離を置きたいというクリエイターの意識がうかがえます。現実から離れた世界へと、ポジティブにエスケープする、一種の現実逃避にも似た感覚です。感染症が広がって、自由が制約されたのに加え、国家間の戦争まで起きてしまったことから、「こんな現実はいやだ」と、現実を否定する気持ちが強まったことがシュルレアリスムを引き寄せたとみられます。
シュルレアリスムの絵柄は、現実には存在しない題材を描くケースが多いので、ウエアに写し込むと、ミステリアスな雰囲気を自然と帯びます。ユーモアやひねりの利いたモチーフも多く、装いにエスプリや笑いのニュアンスも加わりそう。防寒のため、重たく見えがちな秋冬ルックにも遊び心やファニーな表情が備わるのも魅力的です。

ランウェイに登場した、超現実的ルックやだまし絵モチーフ

ミラノ・コレクションに参加したイタリアブランドのうち、シュルレアリスム的な表現への接近が目立ったのは「MOSCHINO(モスキーノ)」。邸宅の様々な家具や意匠をデザインに写し込んで、服と家が融け合ったかのような装いを提案。だまし絵(トロンプルイユ)のディテールも取り入れています。
パリコレでも「LOEWE(ロエベ)」がだまし絵のモチーフを大胆にあしらい、シュルレアリスムのムードを濃くしました。全身で「アートを着る」といった印象のルックを打ち出し、幻想的な雰囲気に導いています。官能性とアート趣味が交わり合って、趣深い装いに仕上がりました。
ファッションにとどまらず、アートは時代の空気を象徴するものとして存在感が大きくなっています。美の代名詞でもあるから、着こなしに生かせば、特別感の高い、格上の見え具合に。古くからアートに親しんできたイタリアのクリエイターたちはファッションアイテムへのなじませ方も巧みだから、この秋冬はイタリアファッションを入口に、アートをまとうおしゃれを試してみてはいかがでしょう。
ファッションジャーナリスト 宮田理江

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