2022-23年秋冬トレンド解説(前編) 
フォーマル、クラシック、テーラードをひとひねり

2022-23年秋冬シーズンのファッショントレンドは正統派のクラシックな装いが盛り上がりそうです。象徴的なのはフォーマル系のウエア。スーツやドレスも本気のドレスアップ・シーンが復活するのを見越して、主立ったブランドから相次いで提案されています。今回はこの秋冬トレンドを解説します。

「テーラリング」の再評価 
さらにひねりを加える新手法

イタリアのファッション文化を象徴するテーラリングにも再評価が進んできました。メンズだけではなく、ウィメンズにもパンツスーツやタイドアップ(ネクタイ姿)が台頭。凜々しいマスキュリンな出で立ちがプラウドな女性像を印象づけます。
でも、単に伝統的なフォーマルルックをリバイバルさせているわけではありません。ディテールや素材感にひねりを加える「技あり」のオーセンティックが次のトレンド。崩したりずらしたりといった具合に、オーソドックスを程よく踏み越えるアレンジが利いています。
これまでは英国紳士風のスーツが勢いを得ていましたが、来秋冬の傾向はイタリアテイストが盛り込まれています。イタリアは歴史的にテーラリングの文化が根付いていて、仕立て職人の腕前も格別。英国式のトラッドとは異なる、粋で軽やかなスーツで知られています。

「フォーマル」を普段使いに落とし込む新提案

礼装の「普段使い」が提案されているのも、新シーズンの目立った動きです。タキシードや夜会服風ドレスを、非フォーマルの場面に着ていくという、場面の常識を踏み越えるような「シーンフリー」の着こなしはチャレンジングでスリリングです。
フォーマル系の服は冠婚葬祭に代表されるセレモニーにしか着る機会がないと思われがちでしたが、新スタイリングでは「何でもない日」に着ることによって、出番を増やすとともに、こなれた見え具合に仕上げる着こなしに誘っています。手持ちのフォーマル系アイテムをマルチに着回せる点で重宝なアレンジです。
ウィメンズの装いでも本格的なドレスアップが復活しそうな気配です。たとえば、床まで届きそうなフロアレングスのドレスやスカートは久しぶりのリバイバル。たっぷりと膨らませたボリューミーなシルエットにもゴージャス感が漂います。スパンコールやラメ、ビジュウといったきらめきディテールがあでやかさに華を添えます。
宮廷の貴婦人ライクな演出がよみがえります。ウエストを絞るコルセットも復活。でも、昔のようにドレスの内側に着込むのではなく、最も外側から目立つように巻いて、ボディーシェイパーとして視線を引き込むのが今のまとい方。ウエストのくびれを際立たせるフェティッシュなおしゃれ小物です。
レディーライクなたたずまいを印象づけるのは、ひじまで覆うロンググローブ(長い手袋)です。オペラ観劇のようなフルドレッシングを象徴する小物ですが、デイリーシーンに持ち込む提案が目立ちました。襟や袖にアイキャッチーな飾りや量感を加える演出も、ドレスアップ気分を盛り上げてくれます。

イタリアのラグジュアリーブランドが
ネオ・サルトリアルスタイルを披露

22-23年秋冬のミラノ・コレクションでは、こういったテーラリングや貴族・上流階級風を打ち出すブランドが目立ちました。たとえば、「JIL SANDER(ジルサンダー)」は洗練されたサルトリアルスタイルの装いを披露。イタリア製ウールの上質感を生かしました。
「PRADA(プラダ)」はマニッシュで端正なジャケットを、オーバーサイズのシルエットで仕立てて、テーラリング技法をウィットフルに生かしています。スカートスーツはウエストを絞って、華奢感を引き出してみせました。
ロンググローブとコルセットで古風な貴婦人ムードを醸し出したのは「FENDI(フェンディ)」。マニッシュな雰囲気のテーラードジャケットと、やさしげな表情のシフォン系素材を交わらせて、女性像に奥行きを加えました。
「GUCCI(グッチ)」はウィメンズ服もタイドアップして、スーツをジェンダーレスにアレンジ。スポーティーとのミックスも試しました。伝統的なテーラリングにアートやロックのムードをまとわせています。
フォーマルウエアやスーツ、ドレスを、普段使いする着こなしは、こなれた見え具合に整えるうえでも効果的なスタイリングです。イタリアブランドならではの上質素材や本格的テーラリングは、着崩したときでも品格やエレガンスを保ちやすいから、自分好みのコーディネートを試しやすくなります。
ファッションジャーナリスト 宮田理江

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