いまさら聞けない「ミラノ・ファッションウィーク」とは? 
成り立ちと最新傾向

イタリアが世界的なファッションの発信地であることを示す催しが「ミラノ・ファッションウィーク(Milan Fashion Week、以下MFW)」です。パリやロンドン、ニューヨークと並んで、「世界4大ファッションウィーク」と位置づけられています。今回はこのMFWのあらましをご紹介します。

世界4大コレクションの1つが
「ミラノ・ファッションウィーク」

MFWは名前の通り、イタリアのファッション都市、ミラノで開催されます。時期は毎年、春夏向けと秋冬向けの2回。期間は1週間程度です。直近の2022-23年秋冬コレクションはメンズが1月14~18日、ウィメンズが2月22~28日に開催されました。
そもそもファッションウィークとは何かといえば、半年後に売り出される新作の発表会を束ねたイベントです。近ごろではウィメンズのMFWには60以上ものブランドが参加しています。
期間中は1日に10本以上のファッションショーが開催され、バイヤーやジャーナリストが招かれます。本来、新作発表のタイミングや場所は各ブランドが勝手に決めて構わないのですが、来場者のスケジュールを確保するには、日程をまとめてしまうほうが好都合なのです。
ブランドは百貨店やセレクトショップのバイヤーに商品を買ってもらうことによって、ビジネスが成り立っています。ファッションショーは翌シーズンの商品をお披露目する機会。バイヤーにとっては買い付けのタイミングとなります。華やかな発表会的なイメージのあるファッションショーですが、同時に取引の商談が組まれていて、ビジネスの舞台ともなっているわけです。
世界的なファッションの発信地には先に挙げたパリ、ロンドン、ニューヨークがあり、それぞれにファッションウィークを開催しています。日付の早いほうから順にニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリと続きます。
それぞれのファッションウィークは地元のファッション団体が主催しています。MFWの場合はイタリアファッション評議会(Camera Nazionale della Moda Italiana、CNMI)が主宰団体です。イタリアの有力ブランドが名を連ねています。
4大ファッションウィークにはそれぞれの国のブランドが主に参加しています。当然、MFWはイタリアブランドが主役です。しかし、外国ブランドが参加してはいけないというルールはなく、MFWを発表の場に選んでいる外国ブランドもあります。逆に、イタリアブランドがパリやニューヨークで発表することも可能です。

 

リアル(フィジカル)とデジタル、
プレゼンテーションなど様々な手法で表現

ファッションウィークの花形的な存在のファッションショーにも複数の種類があります。最も有名なのは、リアルの会場に来場者を集め、新作をまとったモデルがランウェイ(細い通り道)を行き来する形式です。こちらは「ランウェイショー」と呼ばれます。
感染症の広がりに伴い、リアル(フィジカル)のランウェイショーが難しくなって以降は、あらかじめ録画したランウェイショーを動画配信するケースが増えました。無観客で開催したランウェイショーを、ストリーミング(同時)配信する試みも相次いでいます。
リアルのショーには、臨場感や迫力が伴うのに加え、素材の質感をつかみやすいというメリットがあります。一方、デジタル(動画)配信には時間や場所にしばられず、広く見てもらいやすいという利点があります。動画配信の長所が広く知られるようになってきたので、この先、パンデミックが収まってリアルのショーが復活してからも、デジタル配信の併用は続くとみられます。
モデルがランウェイを行き来する形式のほかに、モデルが立ち止まった状態でポーズを取る「プレゼンテーション」という形式もあります。プレゼンテーションの場合、割と近くに寄って、前後からじっくり眺められるので、モデルが早足で通り過ぎるランウエイショーに比べて、作品のイメージをつかみやすいところがあります。それぞれの良さがあるので、ブランド側は自分たちの好みの方法で表現できるようになっています。

イタリアならではのレザーや
テキスタイルの魅力が凝縮

ファッションウィークではショーに続いて、各ブランドが発表したばかりの新作をショールームでラックに並べて見せる展示会も開かれます。バイヤーはここで念入りに商品を確かめて、注文を出します。新作コレクションに限らない、ファッション関連のイベントも開催され、MFWの期間中はミラノの街がおしゃれなムードに包まれます。
ファッションウィークにはそれぞれに持ち味があります。たとえば、ニューヨークはリアルトレンドに強く、ロンドンは若手のエッジィな提案を得意としています。MFWはイタリアならではの手仕事技に優れ、あでやかなデザインが多用される傾向にあります。メンズの場合は、伝統的なスーツにも強みを持っています。
MFWらしさを示す特徴には、レザーやテキスタイル(生地)の表現もあります。イタリアには歴史的に皮革加工の工場が多く、レベルの高いなめしや染色、仕立ての職人技が受け継がれてきました。ウールをはじめとする毛織物の加工にも長い伝統があります。上質のレザーやテキスタイルが集まる強みを生かしたアイテムもMFWの見どころになっています。

妖艶でクチュール 
2022-23年秋冬ミラノコレクション

22-23年秋冬シーズンに向けては、妖艶でグラマラスなテイストや、アートを思わせるクチュール仕上げなどが打ち出されました。ポスト・パンデミックを期待する気持ちに後押しされる格好で、パーティーや夜遊びを楽しむかのような装いが相次いで提案されています。グラマラスでリッチな雰囲気は、もともとイタリアブランドが得意とするムードであり、各ブランドがたおやかさを前面に押し出して、魅力を発揮しました。
たとえば、ミウッチャ・プラダ氏とラフ・シモンズ氏による「PRADA(プラダ)」はイブニングウエアの表現が織り交ぜられた作品を披露。従来は男性的とされたテーラリング技法をフェミニンに取り入れるような手法も見せました。
ジェレミー・スコット氏が手がける「MOSCHINO(モスキーノ)」は、設備の整った家というコンセプトを選んで、邸宅の様々な家具や意匠をデザインに写し込みました。シュールレアリズムにもつながるアートライクな表現が印象的でした。
ルーシー&ルーク・メイヤー夫妻が手がける「JIL SANDER(ジル サンダー)」は構築的デザインとクラフトマンシップを注ぎ込みました。シャープでありつつ、エレガンスにあふれたコレクションに仕上げています。
「Max Mara(マックスマーラ)」は建築家、ダンサー、テキスタイルデザイナー、画家、彫刻家として活躍したゾフィー・トイバー=アルプにオマージュを捧げたコレクションを披露。ミニとマキシ、マイクロとマクロ、スキニーとアウトサイズなどのコントラストを探求しました。
「Giorgio Armani(ジョルジオ アルマーニ)」は、サウンドトラックが流れない無音の会場でショーを発表しました。ショーの冒頭、アルマーニ氏自ら「ウクライナの悲劇に巻き込まれた人々への敬意を込めて、ショーは無音で開催します」とコメント。ファッションの力を信じる優美なクリエーションが披露されました。

タイムレスでエイジレス 
人生を楽しむ自分流スタイル

サステナビリティーやSDGsの流れがあり、上質な品を長く使うという方向への動きも加速。長い歴史を持ち、タイムレスなものづくりに取り組んできたイタリアブランドにとっては、「時代が追いついてきた」とも言えそうな状況です。年齢にとらわれないエイジレス志向のクリエーションも、人生を楽しむ意識の強いイタリア流になじんでいて、時代の風はミラノにとって追い風となっているようです。
ファッションウィークの成り立ちや傾向を知って、MFWを眺めれば、トレンドの方向感をつかみやすくなり、自分らしい装いにも取り入れやすくなりそう。モードの流れを受けて、ますますMFWはトレンド発信力を強めていきそうだから、これからも目が離せません。
関連サイト
朝日新聞「ミラノ・ファッションウィーク」特設サイト
https://www.asahi.com/special/fashion/mfw2022aw/
ファッションジャーナリスト 宮田理江

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