Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

カーニバルの時期限定、春待ちのお菓子

カーニバルといえば、ロココな衣装で着飾った貴族の仮面舞踏会風のコスプレイヤーが集うヴェネツィアが有名だが、イタリア各地、特にリゾート地では巨大な人形や動物、ファンタジックなキャラクターを乗せた山車のパレードが行われることも多い。ほとんどは子供向けだと思うが、ゆるキャラのようなものではなく結構グロテスクな造形のものもあったりして、日本との感覚の違いを感じさせてくれる。

ところでこのカーニバル、キリスト教、特にカトリックにおける移動祝祭なのだが、その語源には諸説あり、ラテン語のカルネム・レヴァーレcarnem levare(eliminare la carne、肉を断つ)から来ているという説が最も信憑性が高いと言われる。キリスト教暦では、春の復活祭の前にその準備期間として四旬節があり、この期間は肉食を絶って心身を清めることになっているのだ。具体的にいつなのかというと、春分の日の後の最初の満月の次の日曜日が復活祭、その前の40日間(日曜日を含めると46日間)が節制の四旬節で、その前にどんちゃん騒ぎをしおこうというわけである。

しかし、実はキリスト教以前から、古代ギリシャのディオニュソス祭(アンテステリエ=春の到来をワインで祝う祭り)や古代ローマのサトゥルナリア祭(農神サトゥルヌスを讃える祝祭、12月17〜23日)などが人々の暮らしに根付いていた。これらの祝祭では、普段の社会的ルールや身分の違いなどを無視して無礼講で楽しみ、祭が終わると、“新しい”秩序のもとでルールに則った暮らしを始めるのが習わしだった。古い年を捨て、新しい年を迎えるための儀式というところは、日本の大晦日と元旦に似ているかもしれない。ともかくこの世俗の習慣が、キリスト教以降はカーニバルとして定着したのだと考えられている。

カーニバルの時期には、特別なお菓子が街の菓子店やパン屋、スーパーなどに並ぶ。土地によって伝統的な食文化が明確に異なるイタリアだから、カーニバルのお菓子にも土地柄が現れる。ただ、一つ共通する特徴としてあげられるのが、揚げ菓子が多いこと。中でも代表的なのは、薄く伸ばした生地を適当に切り分けて油で揚げ、粉砂糖をふったお菓子で、古代ローマ時代にはすでに作られていたという。土地によって以下のように呼び名が違うがほぼ全国で似たようなものが存在する。
ブジーエ(リグーリア)
チェンチ、ストラッチ、フラッポレ、クロジェッティ(トスカーナ)
キアッキェレ(ロンバルディア、マルケ、アブルッツォ、プーリア、バジリカータ、カンパーニア、シチリア)
チョッフェ(モリーゼ)
クロストリ、クロストイ、ガラーニ(フリウリ、ヴェネト)
グロストリ(トレンティーノ)
フィオッキ、フィオッケッティ(マルケ)
フラッペ(ラツィオ、ウンブリア、エミリア)
ラットゥーゲ、スフラッポレ(エミリア・ロマーニャ)
スフラッペ(マルケ、エミリア・ロマーニャ)

もう一つ、揚げ菓子といえば、一口大のフリッテッレもカーニバル菓子の代表格。ヴェネトが発祥という説があり、オーストリアの揚げ菓子クラプフェンが17世紀にフリウリやヴェネトに伝わり、形が変化したというのがその理由。粉と卵、砂糖、牛乳などで作った柔らかい生地をくるみ大に丸めて揚げる。生地にオレンジピールとレーズンを加えたり、りんご、あるいは牛乳で煮た米を加えることも。さらに揚げた後でクレーマ・パスティッチェーラ(カスタードクリーム)やチョコレートクリームを詰めるバージョンもある。仕上げに粉砂糖をふる場合もあるが、より粒の粗いグラニュー糖をまぶした方がいかにも甘そうで、ジャリジャリとした食感が背徳的というか、乱痴気騒ぎのカーニバルにはこの方が合うように思う。

トスカーナ、特にフィレンツェでは、薄い揚げせんべい(チェンチ)、揚げ団子(フリッテッレ)と並んで、スキャッチャータ・アッラ・フィオレンティーナがご当地カーニバル菓子である。そもそもはパン生地に砂糖、ラード、スパイス、オレンジの皮としぼり汁を加えたものが始まりとも言われる。イーストを使って発酵させた生地を長方形の型に入れて焼いた、高さ3〜4cmほどのスポンジケーキで、表面に粉砂糖をたっぷりとふりかける。さらにフィレンツェの紋章、ジッリオをココアで描くことも多い。シンプルにそのまま、あるいはスライスして2段に分け、間にホイップクリーム、またはクレーマ・シャンティッリと呼ばれるホイップクリームとカスタードクリームを混ぜたものを挟むバージョンもある。さっくりとした独特の食感でクリームとの相性がいい。
見た目は素朴でも、ちょっと手間がかかるので、家で作るというよりも菓子店で買うのが一般的。本当はカーニバルの最後の火曜日マルテディ・グラッソの時だけに食べるものらしいが、今では1月6日のエピファニアが終わった途端にお目見えする。復活祭が来るまでの間、この特別なお菓子を一度と言わず何度でも、おやつやデザートはもちろん、朝食にもせっせと楽しんで、春を待つのである。

記事:池田愛美

フィレンツェでカーニバル菓子を買うなら

Pasticceria Nencioni
Via Pietrapiana, 24r http://www.pasticcerianencioni.com
1950年創業。店内手前はカウンター中心のバール、奥に小さなティールーム。

Forno Top
Via della Spada, 23 https://www.fornotop.it
トルナブオニ通りのすぐ近く、種類豊富なパンと焼き菓子の店。

Antica Pasticceria Sieni
Via Dell’Ariento,29 https://www.pasticceriasieni.com
中央市場そばのバール・パスティッチェリア。トスカーナ伝統菓子が中心。

I Dolci di Patrizio Cosi
Borgo degli Albizi, 15r http://www.pasticceriacosifirenze.it
手作りの素朴な伝統菓子を得意とするバール・パスティッチェリア。

La Loggia degli Albizi
Borgo degli Albizi, 39r
小さなテラス付きのバール・パスティッチェリア。ナポリ・シチリアの菓子も。