Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

人生は祭りだ Vol04ボローニャ:車中泊をしていたら、車に泥棒が入ってきた話

1998年初冬の話。友人カップルから、ボローニャに行かない?と誘われた。ボローニャに女友達と、その彼氏がいるから訪ねたい、とのこと。カップル同士なんだし、二人で行けば?と思いつつ、暇だし僕もついていくことにした。車で向かう道中、彼らは運転をめぐって痴話喧嘩したりして、やれやれと思ったりしたけど、どうにかこうにかボローニャに到着した。ボローニャという街は、イタリアの中でも割とアカデミックな雰囲気があり、学生も多い。彼らの友達アランとその彼氏が出迎えてくれた。彼氏はドイツ系だった。

古い言い方をすると、ダブルデート+日本人男子一名。ほぼトマトとチーズだけなのに安くて超旨いピザ屋で、ピザやらビールやらワインやらで、5人で盛り上がった。その後、アランが暮らす女子寮に移動し、二次会〜お泊まり、という流れが組まれていた。「女子寮」という甘い響きなのに、男子も入り放題なのがイタリアっぽいというか、これじゃそもそも女子寮の意味あるのか?と思いつつも、アランの部屋に入った。狭い!狭すぎる!3畳くらいの部屋に、机とベッドだけ。食堂やシャワーは共同のものがあるものの、ここにどうやって5人で眠るんだろう?彼氏たちは二人ともデカい。ドイツ系の彼は190はありそうだ。

富士山の8合目の山小屋で眠る時にはこう眠る、と聞いたことがあるけれど、我々はとにかく横になった。2人はベッド、残り3人は床。満員電車内のように両サイド、体が密着している。しかも女子寮のセントラルヒーティングが超暑い。無理だと思った。そもそも自分以外はカップルが二組。よし。フィアットパンダで寝よう。

「車の鍵、もらえる?ぼくは車で寝るよ」と言うと、「なぜ?」「寒いぞ」「狭いぞ」「眠れないぞ」など引き止められたものの、鍵を預かり路駐した車へ向かった。助手席のシートを倒し横になる。はぁ〜と安堵のため息が漏れる。広い。女子寮より相当快適だ。あっという間に眠りに落ちた。朝方4時頃だろうか。ゴソゴソと音がして目を覚ますと、知らない男が僕の荷物を漁っていた。初めは、友人が忘れ物でも取りに来たのかなと思って寝ぼけ眼で目を開けると、知らない男と目があった。ん??その男が、僕の顔を見て一言。

「車の中で眠るときは、鍵は閉めろよ」

僕は一瞬のフリーズののち、その男が泥棒であることに気づいた。男は猛ダッシュで車から逃げる。僕は、変なパジャマみたいな格好で追いかけたが、すぐ逃げられた。車に戻ると、ぐちゃぐちゃにされた鞄が広がっていたが、幸い大して何も盗られずに済みましたとさ、ていう話です。翌朝、2組のカップルたちと合流し、ことの一部始終を話すと、「マジか!」「そんな話聞いたことないな」「ボローニャはイタリアの中でも治安のいい方なのに」と驚かれたが、最後に一人、彼氏の一人が真顔で、ここは本当に真顔でこうった。「車の中で眠るときは、鍵は閉めろよ」おい。そこじゃないだろ!

 

教訓:イタリアで車中泊するときは、鍵は閉めること

 

その泥棒はいかにも泥棒って感じではなく、「Ho Fame」と書いた段ボールを掲げて地下鉄の駅に座っているような人でもなく、普通の、それこそ大学にいそうな若者だった。ずいぶん昔の話なのでいまのボローニャはこんなことないと思いますけどね。

 

1998年冬。
泥棒事件の翌朝、不貞腐れた僕は、ボローニャの街を歩く友人たちを後ろからパシャリ。長身の彼氏たちは眠れたのだろうか。この後ニョッキを食べた気がする。このうち一組はその後結婚し、今はドイツに暮らしている。

 

志伯健太郎
クリエイティブディレクター。慶應SFC、イタリア・ローマ大学建築学科で建築デザインを学び、2000年電通入社後、クリエイティブ局配属。数々のCM を手がけたのち、2011年クリエイティブブティックGLIDER を設立。国内外で培ったクリエイティブ手法と多様なアプローチで、企業や社会の多様な課題に取り組む。 glider.co.jp