Storie di passione italianaイタリアに恋しちゃう物語

食をテーマに街と共存するスマートホテルがフィレンツェにオープン

観光の街フィレンツェには、ホテルだけでなくB&Bやバカンスハウスも含めればそれこそ星の数ほど宿泊施設がある。わずかな五つ星ホテルやスモールラグジュアリーホテルを除き、その大半は荷物を置き寝ることを主目的とした、その割に結構な料金がかかる、いわゆる観光ホテルだ。そうした従来のホテルとは一線を画す新しいコンセプトのホテルが誕生した。それも、“空白地帯”と呼ばれるサンタ・マリア・ノヴェッラ地区にだ。
同地区は鉄道駅を含む一帯で、駅に近いからホテルの数は多いが、取り立てて泊まりたくなるようなところはなく、そして観光客が時間を潰すために利用するような飲食店もあるが、わざわざ食べに行きたくなる店はほとんどない。そういう意味で空白地帯と呼ばれているのだ。しかし、9月にオープンした「25Hours Hotel Piazza San Paolino」はようやく登場した“行きたくなる”ホテルでありレストランである。
25Hours Hotelsは、2005年にドイツで創業したホテルグループで、ドイツに6軒、そしてパリ、ウィーン、チューリヒに展開し、このほどイタリア第1号としてフィレンツェにオープン。さらにドバイ、コペンハーゲン、シドニー、メルボルンでの開業を予定している。コンセプトは「大都会に住み、旅先でもユニークな体験を求めるゲストに、特別でオリジナリティ溢れるステイを提供するスマートホテル」。というわけで、25Hours Hotelsは二つとして同じようなホテルはない。旅行者にはその土地特有の雰囲気を味わってもらうため、ホテルごとにデザイナーを選び、明確なイメージを打ち立て、入念にストーリーを作り上げていくという。

サン・パオリーノ教会に隣接する修道院はフィレンツェ貯蓄銀行の融資会社モンテ・デイ・ペンニの本部として使用された後、長きにわたって閉鎖されていた。この建物が面するパラッツオロ通りはその対面の建物も閉鎖されていたため、いつでも薄暗く寂しい通りだった。そんな忘れ去られた場所を蘇らせるため、イタリアデザイン界を代表するデザイナーの一人、パオラ・ナヴォーネは、フィレンツェに生まれた詩人ダンテの「神曲」をホテルのテーマに据えた。奇しくもダンテは700年前の9月14日に逝去しており、2021年フィレンツェではダンテ・イヤーとしてさまざまな企画が展開されている。このタイミングでこのホテルに滞在し、「神曲」世界に思いを馳せるのも悪くないかもしれない。

ホテル内は「地獄」と「天国」言い換えれば「不徳」と「美徳」、それぞれのテーマが混在する。修道院跡に66室、隣接する建物に104室、合計で171の客室も「地獄」は赤、「天国」は白をテーマカラーとしている。そして、ホテルの中心をなすレストラン、ラウンジ、中庭は緑色で溢れんばかり。単に色としてだけでなく植物もふんだんにあしらわれており、フィレンツェのホテルでこれほどまでに緑に力を入れているところは珍しい(広大な庭園を持つフォーシーズンズフィレンツェを除いて)。うがったことを言えば、赤、白、緑はイタリアの三色旗でもあるが、そんなオチをつけるところも心憎い。

イタリアを旅する楽しみの一つが食。このホテルはもう一つの重要な柱として食に照準を定めている。修道院の中庭にガラス張の屋根を設け、その下をメインダイニングとし「リストランテ・サン・パオリーノ」と名付けた。このガラス屋根はフィレンツェのホテルとしては最大で、どんな天気でも空を感じられる開放的な空間である。テーマカラーである緑を随所に使い、それも濃淡さまざまなニュアンスで、これほどまでに緑のバリエーションがあるのかと驚かされる。料理は“友人の家や田舎のレストランのような”気取りのないトスカーナ料理をベースにイタリア各地の料理を織り交ぜ、さらに時には、デザイナーのパオラ・ナヴォーネのプライベート・レシピに基づいた料理も登場する予定だという。

レストランの手前、パラッツオロ通りのエントランスに入ってすぐの左手には「コンパニオン・バール」がある。フィレンツェで生まれたカクテル、ネグローニをテーマにしつつ、もう一つ、季節のフルーツを使ったよりアルコール度数の低い、コンテンポラリーなカクテルも楽しめる。鮮やかなブルーの壁と輝く真鍮のコントラストも目に楽しいバーだ。
もう一つ、今までのホテルにはない食の提案が「ボッテガ・アリメンターリ」だ。サン・パオリーノ広場に面したショップ&カフェである(ホテルのメインエントランスもこの広場側、現在工事中だが近日中に完成する予定)。中央のカウンターにはガラスケースに収まったピッツァ、キッシュや惣菜、壁に沿った棚にはパスタ、トマト缶、ビスコッティなどの食品が並ぶ。天井にはサラミを模したオブジェが下がるシャンデリア、カウンターの上の方にはモザイクで描かれたGolosi(食いしん坊)の文字。そこにいるだけでわくわくが止まらなくなる空間だ。このボッテガを仕切るのはフィレンツェの人気レストラン「Santo Bevitore」のパンと食料品の店「S.Forno」。パンやキッシュのクオリティ、食品を選ぶ目は折り紙つきである。

ホテルでは、レストラン、バー、ショップ&カフェは宿泊客以外の人たちにどんどん利用してもらいたいと考えている。ホテルは観光客のものと限らず、街と共存する。今までのフィレンツェのホスピタリティにおける弱点克服が、このホテルから成し遂げられるかもしれない。

25Hours Hotels
https://www.25hours-hotels.com

 

記事:池田愛美